八岐大蛇公園とオロチの棲んだ天が淵

2022年11月7日月曜日 15:48

八岐大蛇公園は島根県雲南市にある公園で、箸拾いの碑が立っている。高天原を追放されたスサノオが出雲に降り立った時、斐伊川を流れてきた箸を見つけて上流に人がいることを悟ったのが、この地であると言い伝えられているらしい。それを記念した碑なのだ。
また、天が淵あまがふちは同市にある淵で、ヤマタノオロチの棲み処との伝承がある。

スサノオが箸を見つけるくだりは古事記にある記述で、
降出雲国之肥河上、名鳥髪地。此時箸従其河流下。於是須佐之男命、以為人有其河上
(出雲国の肥河の川上、名を鳥髪という地に降臨した。この時箸がその川に流れ下ってきた。そこでスサノオは、上流に人がいると悟って)
とある。
鳥髪とりかみ」は船通山せんつうざんに比定されており、だとすると山の谷筋を下っている途中で、川を流れてきた箸を見つけ、また川上に戻ったことになる。おかしな行動のように思えるけど、この見立てが間違っているのか、スサくんが当てもなくウロウロしているだけなのか。

天が淵については、『天淵八叉大蛇記』に詳しい。この史料は、戦国時代・大永三年(1523)に東福寺の僧・李庵光通が編述したもので、松江市の内神社うちじんじゃ所蔵。『群書類従』に収録されている『雲州樋河上天淵記』は、当文献の末尾に天叢雲剣説話を増補したものとされる。
この『天淵八叉大蛇記』に、
出雲州、仁多郡、三澤郷、樋河上、天淵者、上古海潮来往之渓曲也。今既澗水袞々然、為漲流洄洑之淵矣。~中略~有八叉大蛇而居之中焉。是故八色雲気、常起自此渕、而射斗牛之間也。
(出雲州・仁多郡・三澤郷・樋河ひのかわ上流の天淵とは、昔は海水が満ち引きする谷川だった今は水がこんこんとし、流れが渦巻く淵となっている。~中略~ヤマタノオロチはその中にいた。そのため八色の雲気がこの渕より常に立ち昇り、斗牛(射手座と山羊座)の間を射していた)
とある。
また、
又東岸盤渦之底、有三尺余之円穴、居俗往々。潜水没渕、入其円穴、其中渺々乎、茫々乎、而無滴水。蓋叉蛇旧窟宅矣。
(また(天淵の)東岸の渦巻く川の底に、三尺余りの円い穴があり、そこにオロチが住んでいた。水に潜り渕に没してその円い穴に入ると、中は果てしなく広々としており、川底だというのに滴る水が無い)
ともあり、斐伊川の底にオロチの住まう穴があるという。
当文献には他にも、「八本杉」・「草枕」など、オロチ伝説の故地が記されている。江戸時代の地誌よりも、伝承の存在が遡れるわけだ。

斐伊神社から八岐大蛇公園までは、3キロほど。斐伊川水系の久野川を渡るために、少しだけ遠回りして到着。土手を挟んで西には、本流の斐伊川が流れている。Y字路の道幅が広くなっている所に停車。


公園の奥には、対峙するスサノオとヤマタノオロチの石像が!オロチの首が1つしか無いとか気にしない、石見神楽の大蛇だって首は1つだ。酔って寝込んだところを屠ったからこんなシーン無いとか気にしない、イメージなのカッコいいの。
真ん中の石碑には、「箸従其河流下」の銘。古事記原文そのもので、「箸、その河より流れ下りき」と読み下せる。


ついついネタにしてしまったけど、本当にカッコいいんだよ!この石を組み上げて表現された鱗とか、凄いよ!写真で見る以上に迫力あるよ!


嫁にお願いして、クシナダヒメごっこ。櫛に変化させられてスサノオの髪に挿さっていたのだから、傍らにいるはずがないとかツッコんではいけない。こんな風に遊んでしまうくらい、石像群を気に入った。嫁も結構ノリノリ。

あまり長居できないので、遊びもそのくらいにして、次に向かう。斐伊川の上流へと、ほぼ川に沿って南下。
その途上、水量の多いダムを見かけた。見物のための駐車場もあった。嫁の興味を引いたようだし、あとで時間があったら寄ってみるか。


天が淵公園には駐車スペースがある。十数分走っただけなのに、やけに遠く感じた。


川辺に下りる階段の手前に、案内の書かれた碑。右のは「天が淵」の下に、小さく「オロチルート」と読める。この赤い線に、何か意味はあるんだろうか。


東屋から眼下の斐伊川を覗くと、青空と白雲が映り込むほど穏やかな淵。怪物の棲息地とは思えない、美しさだ。
階段を下ると、浅瀬を流れる水の音がより大きくなり、小鳥のさえずりまで聞こえる。オロチさん、良いとこ住んでたね~。
地図で確かめたときは、箸を拾った場所からずいぶん近いなと思ったんだけど、現地に行ってみて感じるのは、数字以上の距離。オロチが奥地に潜んでいるというイメージが、変わることはなかった。

さくさく予定をこなせたので、ちょっとだけ寄り道。といっても道なりだけど。


行きに見かけていたこのダムは、日登堰堤ひのぼりえんていというらしい。ダムと堰堤の違いは高さで、15m以上がダムらしいんだけど、ここは高さ20m。堰堤て名前やのにダムやないかいっ。
それはさておき、天が淵とは打って変わって轟く水音。斐伊川とその支流の氾濫を例えたのがヤマタノオロチとする考えがあるけど、このダムはその暴れ川を御するためにある、スサノオといったところか。
近づいてみると、「日登魚道水族館の魚たち」と題した説明板があった。堰堤により魚が川を行き来できなくなるため、魚道が設けられているわけか。で、魚道を通る魚たちを見られるようにしているから、水族館なのね。スゴモロコやタモロコなどが、次々と泳いでいくのを見ることができた。斐伊川、こんなに豊かなんだ。やっぱり水が奇麗なんだね。

雲南の深くまで下道で進んだけど、戻るのには松江道に乗った。
運転中で写真に撮れなかったのが悔やまれるんだけど、面白い看板を見かけた。加茂トンネルを抜け松江市に入って2車線になったあたりに、「ようこそ…歴史と神話の国へ」の文字に、道路を綱のように引っ張る神さまの絵が添えられたもの。国引き神話をモチーフにしているんだろうね。解る人しか笑えないかもだけど、僕は大いにウケた。

スサノオが流れてきた箸を拾った所、ヤマタノオロチの棲み処、オロチが酒に酔って眠ったところをスサノオがズタズタに斬り刻んだ所、オロチの尾を斬って天叢雲剣を手に入れた所、そしてオロチの角を埋めた所……どれも土地独自の伝承として残っているんだもんな。雲南にはヤマタノオロチが、今も確かに息づいているんだな。や~、すごいよ雲南。
嫁に、「ハルくん、すっごい楽しそう」って言われたけど、ホントめっちゃ満喫したよ!

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