神在祭と古代出雲大社高層神殿AR体験

2022年11月9日水曜日 13:35

出雲大社いずもおおやしろでは、旧暦10月11日から17日までの7日間、神在祭かみありさいが催される。
中世の俗説として、10月に全国の神々が出雲大社に集まり、諸国から神がいなくなることから「神無月かんなづき」になったといい、出雲国では反対に「神在月かみありずき」と呼ばれるといわれた。
この時期が、一年で最も出雲大社の参拝者が多いと聞く。それでも、せっかくの機会だから「神在月」を体感したい!そう強く思って、此度の旅行を計画したのだ。

前述のとおり10月の異称を神無月というけど、その語源は、神を祭る月であることから「神の月」とする説のほうが有力。神無月の「無」は、「の」を意味する格助詞「な」であるということ。
江戸中期の政治家であり学者の新井白石の著した辞書『東雅とうが』に、
カミナツキといひしは、カミノツキといひし詞はなり。たとへば万葉集の歌に、神辺山としるせしを読て、ミムナヒヤマといふが如し。古語にはノといふは、転してナとなりし事は、いくらもあり。水上の如き、ミノカミといふべきを、ミナカミといひ、田上の如き、タノカミといふべきを、タナカミといふが如し。
とあり、諸説あるなか結局これが可能性高いわけね。
同時代の国学者・谷川士清たにかわことすがが『和訓栞わくんのしおり』で唱えた「神嘗月」説も、意味的には近い。
それにしても、これだけ長く親しまれている言葉であるのに、語義不詳というのは面白い。

島根旅行3日目の朝、少しだけ早めに活動開始。ホテルを出たら、島根県立古代出雲歴史博物館の駐車場へ。神在月とはいえ、さすがに8時過ぎではガラガラ。余裕で停められた。
そこから勢溜の前にある、スタバ出雲大社店まで歩く。オープン前だけど先客が二人。間隔を開けて座って待っていると、スタバのおねーさんが、開店前からありがとうございますと言って、クッションを置いていかれた。ああいう一言がさらっと出てくるから、スタバの店員さん好き。


程なくお店が開いたので、トールサイズのラテを注文して2階席まで運んだ。ここには勾玉型のテーブルがあり、出雲らしさを出している。
僕らは窓側に並んで座り、まったり一日を始めた。そういえば、ショートサイズで頼んだら出雲限定マグに入れてくれるみたい。いいな、そういうのも。

さあ、出雲大社を6年ぶりにお参りしよう。2回目ならではというか、ちょっと変則的に。まず、神迎の道を西へと向かう。つまり一旦離れる。


今回は、旧表参道である御宮通おみやどおりから行こうと。稲佐の浜からってのも最初考えたけど、前日行ったし時間もかかるので、やめておいた。
御宮通を北へと歩き、道なりに東に向かっていくと、大注連縄で有名な神楽殿の前あたりに出る。勢溜の鳥居からの下り参道と同じく、この西側にも祓社が、金刀比羅宮と並んで鎮座している。こちら側も参道と認識されている証拠なのかな~。


西側は、鳥居の代わりに小さな門。社号標も、現表参道に比べると控えめ。境内に入るには違いないので、一礼してくぐる。こっちからだと、鳥居をひとつも通らないことになるんだよな。


まずは八足門にて二礼四拍手一礼。オオクニヌシさんも神議でお忙しいんだろうなぁ。
それにしても清々しい青空。境内は賑やかだ。


稲佐の浜に上陸された八百万の神々を出雲大社までご先導なさるという、龍蛇りゅうじゃさまにも奉拝。神在祭の期間ならではのことだ。


十九社じゅうくしゃの前にも、多くの人が参拝に押し寄せていた。上宮でもそうだったけど、熱心に手を合わせる方をよく見かける。


十九社は神在祭において、集われた全国各地の神々のホテル兼職場となるお社で、この間だけは戸が開いている。なので、これも特別な光景。
嫁が本殿の背後に回りたいと言うので、境内を反時計回りに進む。


その途中、本殿の真横から改めてその大きさを確かめた。8丈の高さもさることながら、面積が巨大なんだなぁ。しっかり意識を向けたからか、やっとその規模を実感できた気がする。


嫁のお目当ては、境内や参道に点在するウサギの像たち。勾玉や銅鐸を持っていたり、稲穂を咥えていたり、お酒を造っていたり、走っていたり合掌していたり、中には警備員の恰好をしていたりと、実にバラエティに富んでいる。奉納された方によって、色んなバリエーションがあるみたい。これらを探し回るのも楽しい。

続いては、AR体験で遊んでみよう。稲佐の浜でも試して面白かったスマホ用アプリ『ストリートミュージアム』が、出雲大社でも使えるのだ。


出雲大社松の参道の東側に広がる、東神苑。ここでARを起動すると、目の前に古代出雲大社高層神殿が!少し離れたところからでも相当な迫力だけど、近づいてみると、高い……デカい……!


ARの長所が、あらゆる角度から眺められること。神殿の真下に入って見上げてみたり、そこから階段が地面に接している端まで歩いてみたりして、その規模を体感する。
階段の上を見てみると、神官らしき人がゆっくりと上がっていっていた。ループするまで見守ってみたけど、階段を上がる以外に特別なアクションは無かった。
ちょっと残念だったのは、国譲り神話ARと違って、建物の横に並べなかったこと。地面とその付近が丸ごと映像になっているため、そこに重なって立つとこちらのほうが消えてしまう。
とはいえ、平安時代の高さ16丈あったという古代神殿を、実際に首を上に向けて見上げるという経験は、十分に楽しかった!二人で東神苑をウロウロしまくったよ。

思いの外はしゃいでしまい、予定より時間が押している。
表参道から出ようと進んでいくと、祓社にできた長い長い行列が目に入ってきた。こんなになるの、神在祭!?早く行って良かっただし、西から行って良かっただよ。ビックリした。みんな祓社で心身を清めてから参詣しようとしているあたり、ちゃんとしている人ばかりってことなので、そういう意味でも神在祭凄い。


古代出雲歴博は、ちょっと巻き気味に回ることにした。こちらも再訪だ。


と、思ったらこちらにもウサギの像たち。綱引きっぽいけど、国引き神話を連想せずにはいられない。

さて、まずは常設展。『訂正出雲風土記』や『金輪御造営差図』の複製、龍蛇神に関する史料など、一度観たはずのものでも、知識がアップデートされた今だと、また感じるものが変わる。


ついさっきARでも見た高層神殿の模型は、その上部に空を映していた。こんな工夫していたのか。前回は気づかなかった。というか、今回嫁が気づいて教えてくれた。


興味深ったのが、ミニ企画「神在月と縁結び」。有名な歌川国久の『出雲国大社之図』をじっくり観賞できたし、月岡芳年の“神さま、縁を結び間違える!?”というギャグみたいな『大社ゑんむすび』には笑った。江戸時代まで来ると、感性が現代に近いね。


「国引き神話」の映像は、立体地図との組み合わせでとても解りやすい。文章を読むより一目瞭然だもんな。


荒神谷遺跡から出土した無数の銅剣は、何度観ても圧巻!


常設展の最後に、旧北松江駅改札と一畑電車。思わず改札を通りたくなる。すると、駅構内アナウンスが流れ始めた。この仕掛け、好きだねぇ~。
全体的に、こんな展示あったっけ?と覚えていないものが結構あって、自分の興味の移ろいや記憶力の無さに、多少呆れもした。


それから、企画展『出雲と吉備』。
興味のある企画展が丁度開催しているんだから、幸運だ。山陰独特の四隅突出型墳丘墓のひとつ西谷3号墓、その副葬品に吉備特有の特殊器台形土器が含まれるなど、古代出雲と吉備の関係が深いということだけは知っていた。だから、それを学べるのが嬉しくてね。時短のため、集中力全開で回った。
意外だったのが、嫁も関心を持って観賞していたこと。あとで聞いたら、どんな思いで造ったんだろうとか、当時にも流行りはあったのかとか、とても共感する視点ばかり。積み上げや変化があったのは、僕だけじゃなかったんだなぁ。
展示はもちろん、大変勉強になった。

いそいそと最後にミュージアムショップへ。常設展と企画展の図録に、やっと見つけた『出雲銘菓 出雲国風土記 出西しょうが餅』!ほくほくでお買い物した。しまねっこクーポン使えるのも助かる。
予定ではカフェで休憩するつもりだったんだけどね~、そんな余裕が無くなってしまっていた。所要時間を見誤ったな。上手くいったりいかなかったり、そんなものだよね、旅行って。

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