長浜神社と国引き神話

2022年11月8日火曜日 15:29

長浜神社ながはまじんじゃは、島根県出雲市西園町にある神社。中近世には妙見神社と称されていた。
出雲国風土記の国引き神話に登場するヤツカミズオミヅノ(八束水臣津野命)を主祭神とする。ヤツカミズ(八束水)は深い水の意の修飾語、オミヅノ(臣津野)は大水を神格化した呼び名とする説がある。古事記に、スサノオの四世孫としてオミズヌ(淤美豆奴神)がおり、同一神とも考えられる。
大好きな国引き神話、その主人公にぜひともお会いしたいと思い、お参りしてきたよ。

そもそも国引き神話とは、出雲国風土記にて「意宇おう」の地名起源譚として語られる神話。ヤツカミズオミヅノという神が、出雲の国は小さく作られた国だから、土地を作り縫おうと、海の彼方のあちこちから国(土地)に綱をかけては引いてきて、国土に結び付けて大きくしたという。
その出雲国風土記の神門郡・神門水海の条に、
水海与大海之間在山。~中略~此者意美豆努命之国引坐時之綱矣。今俗人号云薗松山。
(水海と大海の間に山がある。~中略~これはオミズヌが国引きをなさった時の綱である。今土地の人は名づけて薗松山といっている)。
とあり、この薗松山そののまつやまが、長浜神社の鎮座する妙見山とみられる。
『出雲神社巡拝記』の神門郡の条に、
薗村妙見神社〈記云〉出雲社〈式云〉出雲神社〈祭神〉くにひきまにやつかみづおみづぬの命
とあるように、当社を同風土記の出雲郡の「出雲社」、式内社の「出雲神社」に比定する説もあるが、長浜の地は神門郡に位置することから、適当ではないと思う。
ただし、風土記の語る「出雲国」の国号は、ヤツカミズオミヅノが「八雲立つ」と言ったことに由来するため、仮に古代から続く神社だったとして、当時“出雲社”と呼ばれていた可能性は残る。
ちなみに「出雲社」の有力な比定社は、出雲大社本殿後方の素鵞社だ。

『雲陽誌』の神門郡・西園の条には、
妙見社。意美定努命をまつる。~中略~薗松山神社といふべきを、妙見社とは如何なるゆへにやいまだ考ず。
とあり、ヤツカミズオミヅノを御祭神としながら妙見社と称する理由は、江戸時代にはすでに判らなくなっていたようだ。
風土記に比定できる社が見当たらず、創建に関する史料も無いとなると、長浜神社の由緒は全く不詳というほかない。

松江で美味しいコーヒーを飲んだあとは、山陰道を走っていよいよ出雲入り。神戸川かんどがわを北向きに越えてから、また今度は西へと妙見橋を渡っていくと、正面に妙見山が見えてくる。そうして長浜神社の参拝者駐車場に到着。


緩やかな参道の石段を上がっていくと、石鳥居が。扁額には「長濱神社」の文字。その先はやや傾斜がきつくなっているが、大した段数ではない。


階段上の随身門をくぐったところに、出雲構え型の狛犬。すっかり見慣れてきた。


それでは、拝殿を介してヤツカミズオミヅノさんにご挨拶。やっとお会いできた。


拝殿の手前に、とても興味深い説明板があった。「当地方では忌明のあと海で身体を清めた証しに海の海藻をもって神社へお参りします」と書かれている。神在祭は「お忌さんおいみさん」と呼ばれるそうだから、ここでいう「忌明」とは八百万の神々が去られたあとも含むんだろうか。
「お供え物でもあるこの神聖なる海草は『いづも』と言われ『出雲』の語源になった言葉です」と続く。「いつ(厳)」は神聖なこと・清浄なことを、「も(藻)」は水中に生える植物の総称を、それぞれ意味する古語。「厳藻」が「出雲」の由来という説もあるんだね。初めて知った。
隣の「厳藻かけ」が、「出」の文字を象っているのも面白い。嫁に指摘されるまで、その形に気づけなかったけど。


大社造の本殿の横に、色づき始めた広葉樹。穏やかで美しい。

さて、国引き神話の一節に、
以此而、堅立加志者、石見国与出雲国之堺有、名佐比売山、是也。亦持引綱者、薗之長浜是也。
(こうして、動かないよう立てた杭は、石見国と出雲国の境にある、名は佐比売山、あれである。また持ち引いた綱は、薗の長浜、あれである)
とあるんだけど、なんと、これらを見渡せる展望台が存在する。それが、長浜神社北方約10キロの奉納山公園ほうのうざんこうえん

長浜神社から奉納山公園へは、途中、稲佐の浜海水浴場沿いの路を通ることになる。弁天島に近い駐車場には警備員さんが立ち、満車の表示。南側の新しい駐車場には余裕があることを確認しつつ、一旦通過。
そのまま国道に沿って出雲大社方面へ折れ、少し行ったところで奉納山への細い坂道へ。行き違いが難しいほどの道幅だけど、もはや慣れたもの。それに、意外とマイナースポットだから、心配いらないだろう。案の定、何事もなく公園の駐車場に着いた。


奉納山山頂には出雲手斧神社いずもておのじんじゃが鎮座していた。御祭神は手置帆負命タオキホオイ彦狭知命ヒコサシリ。由緒書きに、国譲りの際に天日隅宮を造営した二柱の神である旨が記載されている。日本書紀の神代下・第九段・第二の一書を、そんな風に解釈したんだろうか。


公園からでも十分眺望があったけど、さらに展望台に上ってみる。階段の一部が錆びて、穴が開いているのが怖いけど。


わぁ~、遠くまでよく見晴らせる!弧を描く細長い浜あるいはそこに打ち寄せる白波は、なるほどまるで綱のよう。その奥にうっすらそびえる影は三瓶山さんべさん。杭にされた佐比売山さひめやまの比定地だ。まさに、ビッグスケールな国引き神話の舞台そのものを眺められる、なんて素敵なところなんだ!
神話を知らなくても、稲佐の浜を見下ろす展望は魅力的。知っていると、より楽しい。

下りでは、丁度道幅が広くなったカーブで軽トラとすれ違うことになった。ある意味ツイてる。
弁天島前の駐車場は変わらず混雑していたので、その南のほうに停めた。

駐車場を確保できたところで、そろそろ休憩しよう。この近くに、ぴよさんオススメのカフェがあるのだ。

『bocco photo+cafe+space(ぼっこ)』は、カフェとフォトスタジオが一緒になったお店。


店内はオシャレで開放的な雰囲気。とても落ち着く。いいとこ教えてもらったなぁ。
嫁はルイボスレモンティのホット、僕はそのアイスを飲み、二人でデコパンケーキをシェア。ゆったり休めたから、また元気に遊べるぞ。

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