九体阿弥陀如来と雨の浄瑠璃寺

2016年10月25日火曜日 13:32

京都府木津川市の浄瑠璃寺じょうるりじに安置されてる九体阿弥陀如来像。平安時代の京都には同じ形式のお堂が数多くあったが、現存するのは浄瑠璃寺だけとなったらしい。9体の阿弥陀如来は、九品往生くほんおうじょうといって、上品上生じょうぼんじょうしょうから下品下生げぼんげしょうの、9つのランクに分類された極楽浄土への往生の仕方があり、それぞれに対応し迎えに来るのだ。
今や唯一という九体阿弥陀如来が是非とも見てみたい。それが次の目的だ。

平等院をあとにした僕らは車に戻り、一路木津川市へ。いよいよ雨が降り始めた。
小一時間で浄瑠璃寺近くの有料駐車場に到着。京都府だが、地理的にはほとんど奈良だ。観光バスやマイクロバスを見掛けたし、傘を差して歩く数人のおばちゃんたちの姿もあった。意外と人が多い。
折り畳みだけどメチャ広い傘を嫁に渡し、僕は車載してある刀を模した傘を差した。武士の魂でござる。


道標に従い土産物屋や食事処などの間を抜けていくと、浄瑠璃寺の山門が見えた。


境内は真ん中に池がある庭園。色付き始めた紅葉もあった。雨の日のお寺も情緒がある。
寺社巡りをしてて良いなと思うのは、どんな天候でもそれぞれに応じた楽しみ方、味わい方があるってこと。天気をあまり気にしなくて良いから、旅行の計画も立てやすい。この日の雨も想定内だ。

庭園を回るのはあとにして、まずは本堂内の拝観だ。奥の傘立てを利用させてもらい、靴を脱いで中へ。
入った左手にズラリと居並ぶ9躯の阿弥陀如来は、なかなか壮観。
1体ずつ拝みながら、顔付きなどの特徴を見比べていった。やはりそれぞれが少しずつ違う。同じものを作ろうとして微妙に違ったというより、敢えて変えたように僕には映った。どの阿弥陀如来が好みか、なんて話を嫁とした。
9躯の阿弥陀如来だから、てっきり九品別々の印を結んでると思いきや、中尊が来迎印(上品下生)で他の8体はすべて定印(上品上生)。なぜなんだろう。

吉祥天女像も中央付近に安置されてた。
これは正月と春と秋だけ開扉される秘仏らしい。これを狙って行ったつもりじゃなかったから、幸運だったのかも。
ふくよかな顔立ちに、細やかな装飾、少し褪せてるけど彩色が良く残ってて美しい。美人な仏像だ。


本堂を出て庭園を巡る。
静かなお堂、雨に濡れたコスモス、傘を打つ雨粒の音……なんて風流なんだ。いや、もう雨は上がってたけど。


秘仏である薬師如来を安置する三重塔を見上げてから、池越しに阿弥陀仏の坐す本堂を見る。三重塔が東、本堂が西にあるのは、薬師仏の浄瑠璃世界が東方浄土で、彼岸の阿弥陀仏に迎えられて西方浄土に至るということを、表現しているらしい。伽藍配置にまで意味がある、仏教の世界は深い……。


丁度お昼時なので、車に戻る前に参道に面してる『あ志びの店』でとろろそばを食べた。周辺にあるお店がそもそも限られてるけど、ここは美味しかった。キノコと山菜たっぷりなのが嬉しい。
駐車場まで帰ったところ、近くのバス停では傘を持ったおばちゃんたちがバスを待ってた。車がないとここはちょっと不便かもね~。

嫁も僕も基本スタンスとして、仏像は芸術品として鑑賞してる。だけど、仏教的意味合いを踏まえて向き合うと、また違った面白味が出てくる。浄瑠璃寺には、九体阿弥陀如来だけでなく境内に表された極楽浄土など、興味をそそられるものがあった。なんか年寄りじみてるかな。だけど、面白いものをおじいちゃんおばあちゃんだけのものにしておくのは勿体ない。なんて思ったり。

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