箸墓古墳に哀傷を覚える

2016年10月10日月曜日 16:29

奈良県桜井市にある箸墓古墳はしはかこふんの被葬者は、ヤマトトトヒモモソヒメとされる。この舌噛みそうな名前の女性は、卑弥呼ではないか?という説がある。それは、この古墳が前方後円墳のなかでは最古級であり、弥生時代の遺跡としては最大の纒向遺跡まきむくいせきを代表する存在で、この遺跡こそ邪馬台国やまとこくの中心ではないかといわれてるからだ。
また、卑弥呼=神功皇后じんぐうこうごう説もあって、三段論法を用いれば、箸墓古墳の被葬者は神功皇后であるという説になる。仮説に仮説を重ねても、しょうがないっちゃしょうがないんだけど。
そうだったらいいのになぁ~と、勝手に想像を膨らませることができる、そんな意味でも素敵な場所なんである。

時間的に次が最後の目的地になるだろう。僕ら二人は、橿原神宮から箸墓古墳を目指し車を走らせた。
箸墓古墳に駐車場は無い。だけど調べたら、『ひみこの庭』というカフェが近くにあり、駐車場だけなら百円で利用できるようだ。
箸中の交差点を東に少し進むと、そのお店が右側にあった。車を停め、カフェに入る。多少疲れも出てたし、ついでにここでひと休みすることにした。


小さな店内に先客は一名。「カフェ利用ですか?」と店主の女性に訊かれたので、はいと答えて窓際の席に着いた。
大きく取られた窓からは、箸墓古墳の全容が見渡せた。絶好の観賞スポットでもあるワケだ。炭酸が心地よいレモンスカッシュで喉を潤しつつ、ぼんやり眺める。嫁は抹茶ラテ。温かい飲み物でホッとひと息つきたかったそうだ。
横からだと、こんもりした森にしか見えない。あの辺がくびれ部かなと判るくらいだ。航空写真で見たら、それはそれは見事な前方後円墳なんだけど。


店主さんからこんなものを配られた。『ようこそ桜井キャンペーン』応募用紙と冊子。桜井市頑張ってるなぁ。来年2月までだから、あと2箇所くらいなら行くかも。店主さんの感じも良かった。
会計のときに、今から古墳見に行くから駐車場を使わせてもらって良いか確認。すると、お店が16時までで駐車場の入口を閉めるけど、鍵は掛けてないので、開けて出て、また閉めてくれたら構わないとのこと。有り難い。


休憩できたところで、箸墓古墳に向かう。時計回りに歩いていくと、道幅の狭い住宅地に入り込んだ。


古墳の外周にまで近づけた。
要所々々に宮内庁の立入禁止の看板が立ててある。これはここに限った話ではなく、主要な古墳はほとんどそう。一般人はおろか、専門家すら立ち入ることが許されない。考古学調査が進めば、冒頭に述べた諸説など、これまで謎とされてきた数々の歴史の真相が明らかになるだろうに……。宮内庁はよほど知られたくないことでもあるのかね。歯がゆい。


愚痴はこのくらいにして、前方部、古墳を鍵穴に見立てたらその下側にあたる部分に辿り着いた。
参拝者のためか、小さいながらも鳥居が建てられてた。脇の標柱には『倭迹々日百襲姫命大市墓やまと ととひ ももそ ひめの みこと おおいちの はか』と刻まれてる。
古代史を語るうえで、ここは外せない。そう思ったから現地に足を運んだ。そこは田畑と民家に囲まれ、ひっそりとしてる。その重要性と比べたら、なんとも寂しい雰囲気。さっきまで、賑やかで大きく立派な神社にいたせいか、余計にその差が際立つ。ちょっと悲しくなってきた。
――本当は、誰がここに眠ってるんだろう。被葬者が誰なのかわからなくても手を合わせるのは、日本人の美徳だと思う。だけど、葬られた人のほうは、自分が誰なのか知ってほしいと思ってるんじゃないかな。
ロマンを求めてきたはずが、感傷的になってしまった。


振り返ったところに彼岸花が一輪だけ綺麗に咲いてるのを、嫁が見つけた。少し慰められた気分だ。いや、花が慰めてるのは僕だけじゃない、ここに埋葬された名も知らぬ誰か……もだね、きっと。

陽が傾いてきたので、今回はここまで。一日で3箇所だったけど、充実した時間を過ごせた。ロマンは良いものだ。
奈良にはまだまだ行きたいところがたくさん。飛鳥寺に石舞台古墳、大神神社に談山神社も。時間を見つけて、改めて行こう。

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