法隆寺夢殿の救世観音

2016年10月25日火曜日 15:40
法隆寺といえば五重塔と金堂が並ぶ西院伽藍が特に有名だけど、東院伽藍の夢殿ゆめどのに安置された秘仏、救世観世音菩薩ぐぜかんぜおんぼさつ立像も大きな見所のひとつ。春と秋の短い期間しか開帳されないので、いつか拝観したいと思ってた。今回の旅行は、この期間を狙って計画したものだ。

最後の目的地、法隆寺に向けて浄瑠璃寺から車を走らせる。軽く渋滞にハマってちょっと時間掛かったものの、ほぼ予定通りに民営駐車場に到着。南大門近くに停めたかったけど、ぐるぐるして結果的に前回訪れたときと同じ場所になった。
修理中の中門を横目に、夢殿を目指す。今回は潔く西院伽藍を無視するつもり。平日の昼下がりとはいえここはメジャースポット、参道には多くの参拝客の姿があった。
入口で東院伽藍だけの一般参拝券300円を入手。観たいのはこっちだけだったから、この区分けは助かる。

早速夢殿の前へ。内部中央の厨子の扉が開かれており、救世観世音菩薩をこの目で観ることが叶った。金網越しに奥を覗くことになるので、観賞するのは少し苦労する。そのまま嫁にこの仏像について解説。
救世観世音菩薩は一般に救世観音くせかんのんとも呼ばれ、聖徳太子の等身の像と伝えられる。飛鳥時代の作だが、白布でグルグル巻きにされた状態で長い間夢殿に納められていた。そのため、太子の怨霊を恐れ供養のために祀られたとか、法隆寺の僧侶でさえその姿を見ることが許されなかったとか、半ば伝説化している存在だ。明治17年、この封印を解いたのが、アメリカの東洋美術史家アーネスト・F・フェノロサ。彼のお陰で、現代の僕たちはこうして救世観音を拝むことができるワケだ。
そうした経緯を持つため、保存状態がすこぶる良い。1300年以上前に造られた仏像なのに、表面に施された黄金の大部分が残っており、当時の様子が容易に想像できる。
他の仏像と違うのは色の残り具合だけじゃない。顔立ちやポーズも、一般的なそれとは異にする。秀麗なのは確かなんだけど、どこか不気味に映るのは僕だけじゃないはず。怨霊云々の話は別にしてもね。表情が人間的過ぎるから、そう感じるのかな……。


夢殿から離れて廻廊から他の参拝客たちを眺める。秘仏開扉の時期に修学旅行が当たった学生たちだけど、やはりそこまでの関心は無いようだ。むしろバスガイドさんのほうが熱心にすら見える。ずらずらと流れ作業のように中を覗き込んでは去っていく、同じ制服に身を包んだ人々の列は、一種異様な光景だった。かつては自分もあの中にいたはずなのにね。


目的を達成し駐車場に戻ろうとする僕らの上に、青空が。そして、まだ雨で濡れている石畳の通りから、人影がまったく消えた。その小さな瞬間の奇跡は美しく、なんだか嬉しくなった。晴れ晴れとした気分だ。
お茶していこうかとも考えてたけど、嫁と相談して結局まっすぐ帰宅することに。

これほどテーマを前面に出した旅行は初めてだった。比較的近場の関西圏だからこそ実現できた、贅沢な計画。国内でも、遠い土地にはそうそう気軽に足を運べないもんね。近畿に住んでて良かったと思えた旅だった。……関東や九州も、それはそれで羨ましいケド。

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