賀茂御祖神社と大炊殿特別拝観

2018年10月20日土曜日 11:54

賀茂御祖神社かもみおやじんじゃは京都市左京区にある神社で、下鴨神社の通称で知られる。平安京を守護する山城国の一宮で、京都を代表する一社だ。さらに御祭神の神話が、山背国風土記の逸文によって伝わっているので、是非とも参拝したいと思った次第。


河合神社から出て紅葉橋を渡り、下鴨神社の表参道を歩く。台風21号でかなり被害が出たと聞いていたけど、だいぶ片付けが進んだみたい。


手水舎で心身を清め鳥居をくぐって先へ進むと、立派な楼門。


玉垣に入った正面には舞殿まいどのがあった。賀茂祭かもまつり――通称葵祭あおいまつり――の時に勅使がご祭文を奏上され、東遊あずまあそびという雅楽が奉納されるそうだ。
続日本紀しょくにほんぎの文武2年の条に、
山背国賀茂祭
とみえるので、平安遷都以前より賀茂社は信奉を集めていたんだろうね。
東には橋殿はしどのや橋があったけど、まずは本殿に向かおう。


中門も堂々としたつくりだなぁ。
結婚式を挙げている団体を見かけたんだけど、吉日なのかな。慶事は見ているこっちも嬉しくなるね。


門の中にあるのが、言社ことしゃ。7つのお社にそれぞれ大国魂神,顕国魂神,大国主神,大物主神,八千矛神,大己貴神,志固男神がお祀りされている。


これがウワサの「全部オオクニヌシやんか~いッ」というツッコミ待ちのお社か。というのは、先ほど列挙した7柱の神さまはすべて、オオクニヌシの別名とされているから。
えと詣といって、自分の生まれ年のお社に参拝すると良いらしい。おおよそ年齢がバレるわけね。なので、嫁が拝んでる姿は写さないでおこう。


その奥が本殿。といっても幣殿で見えないけど。神事の最中だったから、柏手は控えめに打って拝礼。
御祭神は、東本殿がタマヨリヒメ、西本殿がカモタケツノミ。タマヨリヒメはカモタケツノミの娘で、神話によると、
賀茂川を流れてきた赤い矢を持ち帰り寝室に置いていたら、身ごもった。生まれた男神が成人したとき、祖父カモタケツノミは神々を集めて宴を開き、孫に向かって、お前の父と思う人に酒を飲ませよと言った。すると男神は、天井を突き破って天に昇った。
という。この男神が上賀茂神社の御祭神カモワケイカヅチなので、カモタケツノミとタマヨリヒメを賀茂御祖神と呼ぶわけだ。


中門から出て、西に三井神社みいじんじゃ。河合神社の摂社にも同名があったけど、こちらが風土記逸文に載っている
蓼倉里たでくらのさと三身社みみのやしろ
だ。三身とはカモタケツノミ,イカコヤヒメ,タマヨリヒメの3柱のこと。なお蓼倉里は、現在の左京区下鴨蓼倉町あたりか。


三井神社から南に下ると、出雲井於神社いずもいのへのじんじゃ。ここを訪れる参拝客は少なく、ひっそりとしている。だけど由緒ある式内社だ。通路が狭いから、全体を写しづらい。
社名に“出雲”とあるが、島根県とは直接関係なく、かつての地名である山城国愛宕郡出雲郷からきているようだ。“ゐ”は水を汲む小川のこと、“へ”はほとりのこと。つまり、出雲郷の小川のほとりの社って意味。なぜ出雲郷と名付けられたかは、現存する山背国風土記逸文には残っていないものの、おおかた出雲氏が住んでいたからってとこだろう。
厄除けの御神徳に引かれた嫁がお参りしたがったので、御祭神がスサノオであることを教えてあげると、「マザコン」って。スサノオさんのイメージ、そっちで固まったのかと苦笑。


隈なく境内社を巡るため西参道に行くと、台風によるダメージの残る末社が。ブルーシートをかけられた姿が痛々しい。

続いて東に戻って、中門の脇にある授与所へ。御朱印帳のほか、面白いオリジナルTシャツがあってちょっと買いそうになった。由緒書のリーフレットも百円で置いてた。下鴨神社を舞台とした『有頂天家族』っていうアニメのグッズも多かったな。

そこからさらに東へ行き、橋の横も通り過ぎたところにある別の授与所で、大炊殿おおいどのの特別拝観の受付をしていただいた。初穂料ひとり5百円。
で、大炊殿だけかと思いきや、鴨社資料館や鴨長明資料館も入館できるって。メッチャお得感ある。さっき見かけたリーフレットも付いてきたし。

小さな戸口から浦の回廊に入る。途端に静かになった。土曜日とあって境内は参拝客が多いが、ここまで行く人は少ないようだ。


歩いていくと、東西の本殿の屋根が!さらに北門からは、その姿をしっかり拝むことができた。後ろからでも見られて嬉しいし、有り難い。


葵の庭からは、三井神社の社殿も見えた。もうここまでだけで、特別拝観の価値があるわ。


葵の庭は別名カリンの庭ともいうそうで、カリンの実がなってたり落ちてたり。もちろんフタバアオイも。


水ごしらえ場なる所にある磐座いわくら。式内末刀社まとのやしろの御祭神が降臨する磐座だとか。末刀社の祭神名は不詳で、カッコ書きで『水の神』とあるのみ。謎があるとわくわくする。
しかし、神の依り代たる磐座に小銭置いたらダメだろ……。


大炊殿は神さまへのお供えを調理する社殿。現在は別の場所で行っているけど、かつてここで火を起こし煮炊きしていたそうだ。靴を脱いで上がることができる。神饌だけでなくお祓いに関する資料も展示されていた。
他にも、唐車からぐるまや三ツ葉葵紋蒔絵駕篭、儀装馬車なども見て回ることができた。


最後に、後回しにしていた橋の向こうへ。
井上社いのうえしゃは別名御手洗社みたらししゃ。御祭神はセオリツヒメでお祓いの女神だ。


井上社の前にあるのが御手洗池みたらしいけ。この池から湧く水泡をかたどったのが、みたらし団子の発祥とか。そう聞くと食べたくなる。
嫁が一生懸命カメラを構えているのをこっそり撮った。二人してあちこちポジション探すことが多くなったな。
それにしても、御手洗川っていう案内もあったし、池なのか川なのか判別しにくいね。


帰りは、表参道から瀬見の小川を挟んだ西側の馬場を歩いてみた。流鏑馬やぶさめ神事で使われるらしい。途中、2つの末社があった。
賀茂斎院御歴代斎王神霊社かものさいいんのごれきだいのいつきのみやのみたまのやしろは、真新しい社殿が見ていて気持ちが良い。
斎王いつきのみことは、天皇即位時に天皇の名代として遣わされる未婚の内親王・女王のこと。特に賀茂神社の斎王は斎院さいいんと呼ばれるそうだ。


雑太社さわたしゃ神魂命かんたまのみこととカモタケツノミをお祀りしていた。『神魂』って見ると“かもす”神社とか“カムムスヒ”とか連想しちゃうけど、雑太さわたの地の始祖神を指すらしい。
たまたまに通ずるとして、前の馬場でラグビーの試合が行われたという縁で、ラグビーの聖地になっているとか。絵馬もラグビーボール形。そういや2019年ワールドカップのポスターも貼ってあった。

さすがは音に聞く賀茂の社。見所たっぷりだった。風土記神話に触れたいのが第一の目的だったけど、知れば知るほど奥深くて、面白いね~!

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