雨降る令和の大嘗宮一般参観

2019年11月22日金曜日 12:19

大嘗宮だいじょうきゅうとは、天皇が即位後初めて豊穣を祈る大嘗祭を行うために、新設される宮殿のこと。悠紀殿ゆきでん主基殿すきでん廻立殿かいりゅうでんなどから構成される。11月14日から15日にかけて『悠紀殿供饌の儀』・『主基殿供饌の儀』が催された。
儀式を終えた大嘗宮は解体される。その前に、一般参観が実施されるという。あの、ネット中継で見た、一世一代の儀式の舞台を、自分の目で、見られる!これはもう、滅多にない機会!行くしかない!!
良い時代になったよね、大嘗祭を、歴史そのものを、部分的にとはいえ自宅にいながら拝見できるんだから。平成の時は、歴史に興味なかったからなぁ。や~、有り難い。
それにしてもまさか、年に3度も東京へ飛ぶことになろうとは。でも行かなかったら、あとで悔やむことになるのは明白だしね。人混みも怖いけど、行っちゃえ行っちゃえ。

木曜日、仕事を午前で切り上げ、支度をしたら神戸空港へ。少し余裕があったから、レストランでゆったりお茶して過ごした。夕刻のフライトって初めてだったけど、空から眺める赤から群青へのグラデーションは、美しくて恐ろしくさえあった。羽田空港から東京駅までは、混雑と乗り換えの煩わしさから逃れて、リムジンバスで。乗車前に、渋滞していてかなり到着が遅くなることを念押しされた。少々遅れても構わないやと乗ったけど、ディナーの予約時間にはギリギリ間に合った。
晩食は『XEX TOKYO』でイタリアン。暗めの照明と落ち着いた内装で、自分たち好み。平日の夜ということでか、英語で接待しているスーツ姿の男性グループもいた。ライブ演奏の音量がそこそこ大きいものの、居酒屋とは違った賑やかさで、むしろ過ごしやすかった。東京駅の夜景は普通。料理が美味しかったし、量も丁度良かった。立地にしてはリーズナブルだし、良いお店だったな~。
宿泊はスーパーホテルPremier東京駅八重洲中央口。何がプレミアなのかは判らなかった。朝食別のプランを選べるスーパーホテルもあるんだね。
ニュースで、大嘗宮一般参観の初日は1日で2万人近く訪れたと聞き、軽く慄いた。覚悟はしてきたけど、大丈夫かな……。

翌朝、時短のためコンビニで調達しておいたスープで朝食を済ませ、ホテルフロントにザックを預けて、出発。雨が早くも降りだしており、出鼻をくじかれた。予報では昼前と言っていたのに。やむなく八重洲地下街の入口まで小走りで向かい、マツキヨでビニール傘を購入。そのまま地下道で皇居方面へ。
行幸通りの先で地上に出る。入口が坂下門となっていたから、ここからなら近いんじゃないか。と思いきや、車上で拡声器を手にした警察官が、二重橋側まで回るよう誘導していた。そういうルートで列整理してるのね……それならそうと、予め告知しておいてほしかったなぁ。内堀通りを南下し、二重橋前から係員に従って、砂利道を歩く。配置されたカラーコーンの幅から、警備側がどの程度の人出を見込んでいるかが透けて見え、その規模の大きさに改めてビビる。平日の9時過ぎ、しかも降雨とあって、人は少なくなっているのだろうけど、だからといってガラガラでもない。人混みが嫌いな僕らには、十分すぎるほど多い。
最初のテントで手荷物検査があり、次に身体検査。気ぜわしいし傘がホント邪魔。


それらを抜けると坂下門。やれやれだ。メモ代わりの写真を撮るにも、カメラのレンズが濡れる。気をつけないと。
宮内庁庁舎前で大嘗宮の解説紙が配られていたので、頂いた。しかし水滴であっという間にしわしわに。これ以上傷めないよう、クリアファイルに挟んでバッグに仕舞った。


富士見櫓を過ぎ、大番所の横の坂を登ると、江戸城本丸跡。その奥に……見えた。まだ距離があるし雨で煙っているけど、実物は良いなぁ。人も想像していたよりは多くない。
途中で売店を見かけ、一方通行で戻ってこられないからと、ちらっと覗いてみた。大賑わいだったけど、僕たちは特に欲しい物がなかった。


いよいよ大嘗宮へ。
通行の邪魔にならない場所に寄ってから、シャッターを切る。


膳屋かしわや神饌しんせんを調理した建物。経費削減のためプレハブになったらしい。
平安前期の儀式書『貞観儀式じょうがんぎしき』に、大嘗宮の造営について詳しく記されている。
宮垣は柴をもって垣となし、八重にして押縁で押さえる。垣の上には椎の枝〈いわゆる志比乃和恵〉を挿す。
とあるのに倣い、景観のため壁にもスダジイを挿しているわけか。


先の引用にあるような柴垣の向こう、右手が小忌幄舎おみあくしゃ、左手が風俗歌国栖古風幄ふぞくうたくずのいにしえぶりのあく。奥に悠紀殿と主基殿の屋根が、ほんの少し飛び出している。消火器箱も目立たないよう工夫されているね。手前に見える黒木灯籠は、あちこちにあった。
最前列で撮影したいのは皆同じ。だから、数枚撮ったらすぐ後ろの人に譲る。これが概ね当たり前にできていたのは良かった。ただ、どこにでもバカはいる。一部、いつまでも張り付いているとか、人の傘に自分の傘ぶつけまくりの迷惑なバカがいた。気づいたら、傘の骨が外れて壊れていたほど。その場しのぎの代物だからまだ良いけど、マナー知らずにはほとほと呆れる。あんまり怒っていても楽しめないから、気にしないことにする。


悠紀殿の千木は内削ぎ。


主基殿の千木は外削ぎ。
神社で内削ぎは女神、外削ぎは男神を祀っているなんて俗説あるけど、例外いくらでもあるからね。ただ悠紀と主基のそれぞれの意味はありそうで、気になる。調べてみたところ、悠紀殿は内宮と同じ、主基殿は外宮と同じって、伊勢神宮に合わせた形式なんだね!納得だわぁ。


悠紀殿の入口。
撮り忘れた~って後悔しないよう、とにかく目に付いた物にカメラを向けた。雨のせいで、全体的にピントが甘いのが悔しいけどね~!天候には勝てない。


右手前から、庭燎舎ていりょうしゃ衛門幄えもんあく、衛門幄、庭燎舎。左右対称に、小忌幄舎のほか、廻立殿の前にも同じ建物が並んでいる。


手前から、南神門みなみしんもん威儀幄いぎあく殿外小忌幄舎でんがいおみあくしゃ
やはり正面が最も混雑する。真正面にこだわらなくても良かろうと、撮りやすい位置から狙った。


南神門は木の皮を残した黒木鳥居で、原始的な形式の鳥居。京都嵐山の野宮神社にも同じ形式のがあるけど、大嘗宮のほうは新しいからか、生の樹皮の感じがよくわかっていいなぁと。


わかりにくいけど風俗歌国栖古風幄の奥に、雨儀御廊下うぎおろうか、左に見えるのが帳殿ちょうでん。雨儀御廊下は天皇陛下が儀式中に通られた廊下。帳殿は皇后陛下が拝礼なさった場所なので、この入口からお入りになられたのかな。
西側は比較的空いている。東西ほぼシンメトリーのつくりだから、多少興味が薄れるのだろう。


主基殿。側面に回るとようやく見えた。屋根に置かれた8枝の堅魚木かつおぎも確認できる。ただ今回、茅葺から板葺に改められた。雨に濡れて光り、これはこれでカッコいい。
主基殿の手前は、楽舎がくしゃ


こちらにも鳥居があるんだね。その左の衛門幄と庭燎舎の間から見えているのは、庭積帳殿にわづみのちょうでん


廻立殿。よく見ると、廊下の間にも鳥居が。


北側に回り、ふと見ると、主基殿の千木の両端にカラスが止まっている。チャンスを逃すまいと慌てていたし、遠くてピンボケだけど、エモい光景だわ……カラスは神使ともされるからね。


斎庫さいこ。これもプレハブだけど、一目ではそれと判らない。


主基殿の真裏。ここまで行くと、だいぶ人の密度が薄くなった。この辺りからが、雨儀御廊下の構造が見えやすい。


廻立殿内部は3間に分かれていて、東側が皇后陛下がお着換えなさる場所らしい。だから裏に付いている階段も、中央は天皇陛下、東側は皇后陛下が通られるためのものなんだろうね。予習しておいたお陰で、現地でこういう発見ができて嬉しい。


悠紀殿。これで、すべての建物をこの目で見たぞ。
木々に阻まれて見づらいし行き止まりということで、さらに人が少ない。加えて、ツワブキの黄色い花に癒された。


一通り見学を終えたところで、せっかくなので東御苑二の丸エリアも回った。
天守台、桃華楽堂、諏訪の茶屋と過ぎて、二の丸の雑木林。少し紅く色づいてきていて、綺麗だ。


二の丸庭園の池には、上皇陛下のご発案で生まれたというヒレナガニシキゴイが。長いヒレをなびかせて泳ぐ姿が、実に優雅。


三の丸尚蔵館では、『大礼―慶祝のかたち』という展覧会が開催中だった。菊桐鳳凰文ガラス花瓶や、瑞鳳扇が美しかったなぁ。
そして大手門を抜けて、終了。楠公レストハウス売店に寄ることも計画にはあったけど、二人とももはやそんな気力が残っていなかった。

とにかく休みたい。永代通りを東京駅に向かって歩きながら、目に付いたカフェに入った。『common cafe 丸の内センタービル店』という名前。席に通されると、テーブルにはランチメニュー。そうか、そんな時間か。この際ひと息吐けるなんだって構わない。結果的に、お昼時の混雑前に座れたし、ご飯を食べることで気力も幾分回復したしと、良いほうに転がった。

冷たい雨が降りしきる中、それなりに混雑してて大変だった……でも、儀式当日、帛御袍はくのごほうをお召しになった陛下がここを歩かれてたんだよなぁとか、写真と違い実物見ると意外と奥まで距離があるなぁとか、現地だからこそ感じることがあって、ホント良かった……。
それにしても、つ、疲れた……。

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