泊神社 天岩戸神話もう一つの神鏡の謎

2017年2月19日日曜日 16:16

日本神話巡りにも色々あって、記紀に登場する舞台を訪れる聖地巡礼も良いが、祭神目当てで参って、その社伝にしか存在しない神話に出会うのもまたロマンが膨らむ。
兵庫県加古川市に鎮座する泊神社とまりじんじゃはそんな社のひとつだ。祭神はアマテラス。宮本伊織(武蔵の養子)ゆかりの地でもあるそうだ。


僕の影響で神社に興味を持ち始めた嫁が、アマテラスに会いたいと言い出した。それならばと探してみたところ、市内にもお祀りされてるのを発見。快晴の午後、のんびり行くことにした。
明姫幹線から北上し、狭い生活道路に少し入った所に、駐車場らしきスペースがある。その道路向かいが泊神社だ。
冬にしては風の穏やかな日だったけど、手水をすると無茶苦茶冷たい。それがかえってきちんと禊ぎできたように感じる。


由緒書が、ある意味最大の見所。
ここで有名な天岩戸神話をおさらい。太陽神アマテラスが岩戸に隠れてしまい、世界が闇に包まれたとき、八百万の神々が相談して、光を取り戻そうと画策する。その時イシコリドメが作った八咫鏡やたのかがみが、のちに伊勢神宮に祀られた。
ところが泊神社の社伝によれば、鏡はもう1枚あり、そちらは海に流され、泊まり着いた所に檍の木が生えたのを、檍原泊大明神として祀ったという。
残念ながら、御神木らしいものは見当たらなかった。しかし2枚目の鏡というのが、実にロマンがあるじゃないか。

鏡が檍の木になったというが、この『檍』が難読。アオキ,モチノキと読む。しかしアオキとモチノキではまったく異なる植物だ。ではいったいどちらなのか。
ヒントは記紀にあった。日本書紀には『檍原』という単語が、イザナギが黄泉から帰ってきて禊ぎをした場所として登場する。同じく古事記にも『阿波岐原』と書いてある。檍原泊大明神の檍原は“あわぎはら”と読むということだろう。
この“あわぎ(あはき)”が訛って“あおき”になった。そう考えるのが自然だと思う。つまり、鏡はアオキの木になった。
ということは、鏡はアマテラス生誕地に由来する樹木に変化したといえる。何の脈絡もなく檍になったんじゃない、ちゃんと繋がってるんだ!これって凄い。


さらに深読みしてみよう。
日本書紀の天岩戸神話部分の第一の一書にこういう記述がある。イシコリドメは日矛を作った。また、天ハブキを作った。これを祀ってるのが紀伊国に座す日前神ひのくまのかみである、と。
そして、泊神社の祭神にはアマテラスのほかに、国懸大神くにかかすのおおかみが名を連ねる。聖徳太子の側近である秦河勝はたのかわかつが、秦氏の氏神を和歌山県の国懸神宮から勧請したらしい。聖徳太子は鶴林寺を開基したとする説があり、加古川市との縁は意外と深い。
泊神社の住所は加古川町木村。和歌山すなわち紀伊国から神を勧請したので、紀伊村転じて木村。
話が脱線するが、もともと紀伊国は材木の採れる木国だった。それを朝廷が「好字二文字(漢字二文字の良い字)」を当てることにして、紀伊と改めたのだから、木村は一周して元の字に収まったともいえる。

ここまでくればもう、日前神宮・国懸神宮との関係が深いことは明白だ。日前神宮の祭神は前述のとおり日前神で、アマテラスの別名との説もあり、日像鏡が御神体。国懸神宮は日矛鏡を御神体とするらしい。
要するに、天岩戸神話で八咫鏡に先んじて作られた神器が、泊神社と日前神宮・国懸神宮に祀られてるということになる。
しかも、アマテラスと国懸大神を並べて祀る神社が、加古川と和歌山に存在しているともいえるのだ。偶然にしては出来過ぎ。

御鏡が“泊まり着いた”から『泊』と名が付いた。風土記の命名譚に慣れた身からすると、さもありなんと思う。
泊川とこちらも同じ名を持つ川が、神社のすぐ南を流れている。古墳時代には、このあたりまで海岸が広がってたのだろう。


さて、由緒からの考察がずいぶん長くなったけど、拝殿にてアマテラスにご挨拶。こんな近所でお会いできるなんてね。
たまに地元の方が散歩に訪れるくらいで、境内は静かなものだ。


続いて末社を巡る。南側から時計回りに紹介しよう。
いきなり名が判らない社。弁財天の幟と社が池の真ん中にあることから、祭神がイチキシマヒメなのは間違いなかろう。


種子神社(アメノタネコ)。聞き慣れない神名だなと思って調べたら、日本書紀で神武天皇の家臣としてチラッと登場するだけ。さすがにそこまでチェックし切れてなかった。


次に左から、住吉神社(ウワツツノオ)、泊稲荷神社、日吉神社(クニノサツチ)。


こちらも左から順に、大池稲荷神社、日本媛神社(ヤマトヒメ)、皇孫神社(ニニギ)。


熊野神社(イザナミ)。
全体的にアマテラスに近しい神さまが多いな。


本殿の裏手には月読神社(ツクヨミ)。ツクヨミは三貴神なのに割とレアだから、会えると嬉しい。三貴神のもう1柱、スサノオはいらっしゃらなかったな。


白竜稲荷神社。さっきの大池稲荷神社と同様に、サーモンピンクで統一された社殿が目を引く。“しらたき”と読むんだろうか。
稲荷も多いな。しかも全部祭神不明。稲荷だからといってウカノミタマとは限らないしねぇ。

社以外に、敷地の中には能舞台や中世の赤松氏ゆかりの石弾いしはじき城址などがある。僕にとってはオマケなので、熱心には見てないケド。

や~、よもやこんなに奥深い神社だったとは、予想外で驚いた。ただ、目で見て感じ取れるものではないから、名前が知れ渡ることはないだろうなぁ。少々マニアック。だからこそ、日本神話ファンには興味を持ってもらいたい。
嫁もアマテラスに会えて良かったと言ってた。良い意味で気軽に神さまに会いに行く、その感覚を共有できたことも、僕には喜ばしい。

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