奈良国立博物館 春日大社のすべて展の感想

2018年6月3日日曜日 21:52

奈良国立博物館にて開催の『春日大社のすべて』展は、創建1250年記念特別展として、「春日大社および春日大社に対する信仰の全容を包括的に紹介する」という。参拝とセットにするのに、これ以上ない素晴らしい展覧会だ。


春日さん参りを終えた僕たちは、午後になって一挙に増えた外国人観光客の波間を縫って、奈良博の新館へ。朝から動いてて良かったぁ。
観覧券売場の受付でミュージアムぐるっとパスを提示し、わずかばかりの割引を受けて、チケットを入手。音声ガイドを借りたら、2階展示室に向かう。

第一章は『平安の正倉院』。春日大社本殿と摂社である若宮わかみや神社に納められた、古神宝類こしんぽうるいの数々。
中でも『若宮御料ごりょう古神宝類 毛抜形太刀けぬきがたたち』と同じく『平胡簶ひらやなぐい』、およびそれらの復元模造の雅やかなこと!古びた実物から在りし日の姿を想像する……というのはよくやるけど、精緻な模造品のお陰で、実物と見比べる面白味が提供されていた。や~、凄い。

第二章は『神宝』。刀剣などの武具に施された装飾が見所だった。
国宝『金地螺鈿毛抜形太刀きんじらでんけぬきがたたち』は前期のみの展示で、見ることが叶わなかったのが残念だけど、それを補って余りある神宝がズラリ。
鉄二十八間四方白星兜鉢及鎧金具てつにじゅうはちけんしほうじろほしかぶとばちおよびよろいかなぐ歌絵金物うたえかなもの) 』は、兜という武具であるにも関わらず、鹿のモチーフが付いててなんだか可愛らしい。春日さん意識なんだろうね。

第三章は『春日大社の創建』。僕が最も興味惹かれる内容だ。
万葉集、続日本紀しょくにほんぎ延喜式えんぎしき古社記こしゃきといった古書を部分的に読んでは、ニヤニヤ。特に古社記は、春日大社の縁起を記した現存最古の書物なので、活字でじっくり読んでみたい。


そして『鹿島立神陰図かしまだちしんえいず』。一番の目的はこれ!これを見るために行ったといっても過言ではない。
タケミカヅチが鹿に乗り、常陸国ひたちのくにの鹿島から春日野に降り立ったという、まさに春日大社の創建の伝説を描いた一幅。下の二人は中臣時風なかとみのときふう秀行ひでつらとされる。上方の月のような金色の円は鏡。目を凝らすと、中に5躯の仏が描かれている。本殿の本地仏ほんじぶつである釈迦如来、薬師如来、地蔵菩薩、十一面観音と、若宮の文殊菩薩。
伝説と中臣社家の正当性と神仏習合とを見事に表した構図には、ただただ感服するばかり。こんだけの要素をぶっこんで、破綻しないんだよね……。
それと、知らなかったのが、同じ構図の絵が他にも複数存在すること。タケミカヅチと一緒にフツヌシと思われる神が描き込まれている作品もあった。春日信仰の広がりを感じさせる。

一番見たかったものを見たあとだからか、第四章の印象が薄い。

第五章は『春日曼荼羅まんだらの世界』。春日曼荼羅とは、春日大社の御祭神や本地仏、お社の景観や神の御使いである鹿を描いた画軸の総称。春日さんを遥拝するために作られたとか。
似たようなコンポジションがこれでもかと並んでいて、春日信仰がいかに盛んだったかが伝わってくる。興福寺の伽藍を含んでいるパターンもあり、神仏一体と捉えていた当時の姿まで見通せる思いだ。

第六章は『春日権現験記絵かすがごんげんげんきえの世界』。ここまでくると、仏法説話っぽい雰囲気。しかし色鮮やかな絵巻は、眺めているだけでも楽しい。

第七章は『春日大社の神と仏』。
本地垂迹ほんじすいじゃくの思想が定着するなかで、文殊菩薩とされた若宮信仰が隆盛していったんだなぁ。現在でも、若宮神社は特別扱いされているように感じたけど、このあたりに理由がありそう。詳しく調べていないので、ぼんやりとしているけど。
小難しいことを抜きにして、『鹿座仏舎利しかざぶつしゃり及び外容器』は可愛かった~。手のひらサイズの座り込んだ白鹿。背中に鞍が置かれ、上に榊と円い水晶板。その中に舎利を納めている。伝説のエッセンスをコンパクトに表現しているのだけど、何より鹿が愛らしくって。こういうのだったら、持っておきたくなる。

第八章、第九章あたりまでいくと、興味の薄さと疲れで少々息切れ。途中イスに座って休憩した。
でもいいんだよ。美術館博物館で、全部の作品を鑑賞する必要はないんだ。つまみ食い上等。むしろ今回は、思っていた以上に見応えがあって、食べ過ぎたくらい。


展示室を出たら、糖分補給したくてレストランへ。空席がたくさんあるように見えるのに、全然席に通されないと思ったら、奥は団体用なのね。濃厚なチョコのケーキが食べたくなったから、よほど僕も疲労していたみたい。
最後にミュージアムショップを物色。お高いから迷ったのだけど結局、図録やら何やら買っちゃった。解説が豊富で、資料的価値があるね。あんまり太いから、最初箱かと思った。嫁も、素敵な柄のスカーフを見つけて喜んでた。

もう満腹、大満足。春日大社参拝に3時間、春日大社のすべて展に3時間。春日さん一色の一日だった。美しいものをひたすら愛でる、それだけでも十分に価値のある時間だったはずだよ。

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