わだつみのいろこの宮に会いに行く日

2025年9月12日金曜日 23:07
『わだつみのいろこの宮』は明治期の洋画家・青木繁あおきしげるの代表作。『古事記』を題材に、山幸彦(ヒコホホデミ)が兄の釣り針を探すため海神わだつみの宮を訪れ、海神の娘・トヨタマビメと出会う場面を描いている。
青木は福岡県出身で、夭折の天才と称される。西洋技法に日本的感性や神話を融合させた浪漫的作風で、『黄泉比良坂』・『海の幸』などを制作。絵画に情熱を注ぐ一方、奔放な生活や恋愛でも知られる。経済的にも困窮しながら創作を続け、結核により28歳の若さで亡くなった。
日本神話をモチーフにしているのが興味を持ったきっかけ。だけど、作品そのものの魅力に惹かれ、いつか実物を観たいと思っていた。この旅でようやく願いを叶えられたよ!

旧古河邸を後にした僕らは、上中里駅から京浜東北線で東京駅へ。少し疲れが出てきていたから、座れたのはラッキーだった。
八重洲南口からヤエチカに下りて、仲通りを東へ。道はあっていると思うけどちょっと不安だったので、途中で地上に上がった。ちゃんと八重洲通りに出たぞ。

程なくしてアーティゾン美術館に到着。めちゃくちゃオシャレな外観だ。

展覧会の前に、ミュージアムカフェで休憩。もうすぐカフェタイムのラストオーダーだが良いかと確認されたので、大丈夫と応じると、席に案内された。
ありきたりじゃなく、凝ったラインナップにちょっとビックリ。私立美術館ともなると、カフェメニューにも力が入っているのか。
サッパリしたかったから、二人ともチャイナブルーをオーダー。この一杯がまたオシャレだねぇ。

ひと息つきながら、スマホでウェブ予約チケットを購入。2階のロッカーに荷物を預けたら、3階の美術館入口へ。
この日は「彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術」が開催中だった。お目当てではないものの、目に留まった作品を見て回る。展示の仕方そのものが印象的な一室があり、写真撮影OKということで撮らせてもらった。

お手洗いのために寄ったビューデッキは、この建物自体がアートであることを示していた。凄いなブリヂストン。

4階ロビーにも展示品。クリスチャン・ダニエル・ラウホ作『勝利の女神』とのこと。360度造形が美しく、思わずしげしげと眺めてしまった。

いよいよ「石橋財団コレクション選 コレクション・ハイライト」の展示室へ。モネやゴーガン、ルノワール、セザンヌ、マティス、ピカソなど、財団の所蔵作品の豪華さに目を見張る。

そして、日本の近現代美術コーナーで『わだつみのいろこの宮』と対面!画面越しに魅了されていたくらいだから、この目で確かめられて、ただただ感動だよ。
足下の井戸、玉器たまもいを持つトヨタマビメと侍女、かつらの木の上の山幸彦。まさに神話のワンシーンを描いている。だけど、女性の服装が古代日本らしくなく、玉器も縄文・弥生の土器というより西洋っぽい。侍女の領巾ヒレや山幸彦の勾玉のネックレスあたりに、日本らしさを漂わせている。この独特の世界観が好きだ。
トヨタマビメは、青木の恋人・福田たねがモデルといわれている。顔の見えない侍女はもちろん、この場面の主人公であるはずの山幸彦さえ押しのけて、姫が主役のように見える。美しい横顔だ。

この神話、海の世界のはずなのに、井戸があったり木が生えていたりと、元々不思議な書かれ方をしている。この絵でも海中であることを窺わせるのは、姫の足下から立ち昇る水の泡くらいだ。水に満たされているような、そうでもないような、その曖昧さまで描かれている気がする。

近づいたり離れたり、一枚の絵の前にずっとい続けていたら、その様子を嫁に写真を撮られた。嫁が気を遣ってくれたうえ、他の観客はまばらだったから、じっくり気の済むまで鑑賞することができた。好きな絵を独り占め、なんて贅沢なひととき。

他に気になったのが、ザオ・ウーキーの『07.06.85』。抽象画だけど、深みのある青に引き込まれた。
展示室をひと巡りしたら、2階に戻ってミュージアムショップを物色。『わだつみのいろこの宮』のクリアファイルとかあったらいいなと探したんだけど、残念ながら目ぼしいグッズは見当たらなかった。縦長の作品だから、チケットホルダーにピッタリだと思うんだけどなぁ。

結果的に、予定より30分ほど早く日程をこなせてしまった。東京駅でお土産でも見繕うか。そう考えてお土産屋さんを覗いたものの、ここでも食指は動かず。
改札を抜けて、人々が行き交う通路よりはマシだろうと、待合室で時間をつぶすことにする。それでもやっぱり落ち着かなくて、少し早いけど予約しておいたお弁当を受け取りに行こう。
ところが、新幹線16・17番線の『PLUSTA東京幹線807』の前にはズラリと行列が。人が多い東京では、ホームで駅弁を買うにもこんなに並ばないといけないのか。間に合うのかとやきもきしつつ、最後尾に並んだ。
しかし、さらにトラブルは続く。なんとか発車前にレジにたどり着いて、予約したお弁当を受け取りに来た旨を伝えると、「〇〇さんではないですか?」と全然違う人の伝票を差し出された。間違いなくここで受け取る予約をしたのに、どうなっているんだ。店員さんが再度確認に行き、僕の名前の伝票を見つけ出した。

ひやひやしたけど、無事に駅弁を手に新幹線に乗り込めた。一時はどうなるかと思ったよ。定刻通りに出発したのぞみ81号に揺られながら、「炭火焼牛カルビと牛すき煮重」とビールで乾杯。嫁と新幹線に乗ること自体が稀だから、こうして一緒に飲むのは初めて。緊張から解放されて、二人とも自然と笑顔になった。
あちこちの座席からも、カシュッとプルタブを開ける音が聞こえてくる。こんな時間も悪くない。
そうそう、売店のビールの種類に軽く驚いた。狭い売り場にもかかわらず、アサヒ・キリン・サントリー・サッポロの主要ブランドが揃っていた。こういうところも、東京っぽいなぁ。お陰でそれぞれ好きなビールを選べた。

旅行にハプニングはつきもの。色々あったけど、見たいものをしっかり楽しめて、二人とも満足感いっぱいで帰路に就いたよ。

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