奈良パークホテルで天平の宴

2020年7月11日土曜日 09:16

奈良パークホテルで天平の宴!1300年前の古代宮廷料理を再現するだけでなく、設えから演出まで凝ってる!雰囲気を大事にしながらも、実は掘りごたつで寛ぎやすかったりある程度現代人の味覚に寄せていたりと、そのバランスの取り方が絶妙だった!


昼食を簡単に済ませたあと、平城宮いざない館で諸々確認したりなど、ちょっとおしごと。
ついでに朱雀門ひろば天平みつき館を物色したら、限定のルピシアのフレーバーティー『SUZAKUMON BLEND』なんていう気になるものが。試飲させてもらったら、フルーティな香りがティーバッグにしてはしっかり出てて美味しかったから、購入した。

それから奈良パークホテルへ。平城宮跡から車で約10分、第二阪奈道の宝来IC手前の側道の先にあった。少々わかりにくい。ホテル前の駐車場はガラガラだったので、すんなり停められた。
まずはフロントでチェックイン。カウンターには当然のようにビニールカーテンが付けられていた。普通にスーツ姿のホテルマンもいたけど、華やかな宮廷衣装を着た女性スタッフさんが応対してくださった。マスク着用とはいえ、やっぱこういうサービスは嬉しいね。
ルームキーを受け取ったら、年季の入ったエレベーターで客室階に上がる。今回僕らが予約したのは西館、和室に和ベッドルームが付いたタイプ。ドアを開けると踏込(玄関みたいな所)があって、床の間があって広縁(窓際のソファのあるあのスペース)があって、バスはトイレと別、トイレにスリッパがあるしやたら広い……と、ノスタルジーすら覚えるほど王道の旅館って感じ。二人とも床で寝るの苦手なので、ベッドがあるのが有り難い。


窓に貼られた観光案内に、奈良ドリームランドや奈良そごうが載っていて、逆にスゴい。今やどちらも存在しないけど、このまま残しておいてほしいと思った。
外を眺めていたらドシャ降りの雨になった。あれに遭わずに済んだんだから、良い時に着けたなと。この日の予定はもうないし、夕食までゆったり寛いだ。

此度の旅行で最も楽しみにしていたのが、『天平の宴』。天平時代の宮廷料理を再現したフルコースを、宮中の部屋をイメージした特別室で、簡易だけど天平衣装を羽織り、語り部の話を聞きながら、食べられるのだ。詳細は後述する。
大満足で食事を終えた僕らは、おなかいっぱいで動けず、部屋で食休み。

こなれてきたところで、温泉に入ってみることにした。奈良パークホテルには、宝来温泉という、奈良市内では珍しく自家源泉がある。男湯女湯に分かれるのでちょっと淋しさはあるものの、せっかくなので。
男湯の脱衣所に行くと、先客は一人だけ。体をしっかり洗ったあと、露天風呂を独り占めできた。あちこち人の触る所にはやはり神経質になるけど、人そのものと充分に距離が取れる環境だと、安心して寛げるね。ぽつぽつと小雨の粒が湯をはじく、そんな露天も趣があるものだなぁ。いい湯だった。

休憩所で水を飲みながら嫁を待って合流したら、フロント階にあるお土産ショップを覗いてみた。これが品揃え豊富で、ざっと見て回るだけでも楽しかった。暑くなる日中のことを考えると、車内に置きっ放しにはできないから、結局何も買わなかったけど。


和ベッドでぐっすり眠った翌日、朝食も旅館スタイルのしっかり和食。古代チーズの蘇とこれに茶粥が付くのが、奈良らしい。
ゆっくり身支度してから、チェックアウト。雨が降っていたので、僕独りで車を屋根のある入口まで回してくることにする。ホテルスタッフさんが傘を貸してくださった。入り口前に車を付け、傘を返却し、嫁と荷物を載せたら出立。お世話になりました~。


あ、そうそう、最後にお土産の蘇まで頂いた!これも天平の宴プランに付いているもの。帰宅後にも奈良時代に思いを馳せながら食べられる、なんて嬉しい配慮。




さてここからは、後回しにしていた『天平の宴』について、ネタバレありのレポート。ぜひとも演出は知らずに体験してほしいので、未体験の場合は閲覧非推奨。




18時前に食事会場のある階まで下りてフロアを歩いていくと、衣装に身を包んだ采女うねめさんがお出迎え。その先を案内してくださった。
『大宮の間』の閉ざされた扉を開けると、中はわずかな火の灯りだけの暗がり。戸惑いながらも席に向かう。采女さんと入れ替わるようにやってこられた、語り部の男性に促されるまま、用意された天平衣装に袖を通した。服の上から羽織るだけの簡易的なものだ。部屋に入るときは気づかなかったが、卓の下が掘りごたつになっており、楽に座れるようになっていた。
語り部さんいわく、当時の夜はこの程度の灯りしか無かったであろうと。それを再現し体感させてくれたわけだ。や~、この演出はお見事!一気に1300年前に戻ったようで素敵!


このままでは食事に差し障りがあるだろうと、照明を点けてくれて、だいぶ明るくなった。写真は食後なので卓上など少々乱れているけど、この通り、雰囲気を壊さない形の間接照明。格子から差す光はまるで昼間のよう。宮中の部屋をイメージしたという室内は、大極殿や奈良時代の寺院建築などに見られるような柱が据え付けてある。スゴい……この宴のためだけの、特別な部屋が用意されているんだ。


衣装は文様が細やか。嫁はノースリーブの上から羽織ったせいか、貴族っていうよりその横で太鼓叩く人みたいになっちゃった。


卓には折敷おしきの上に、小皿に高坏に深鉢にと、当時の須恵器を模した食器の数々と、綺麗に盛り付けられた味物うましものがズラリ。これだけでテンション上がる!
右下の3つが塩梅料あんばいで、左から塩・酢・ひしお。醤は味噌や醤油の原型といわれるもので、酢は酒造りの工程で生まれるので当時から在ったそうだ。料理全般が素材そのものの薄味だけど、何もつけなくても充分食べられる、ただどうしても足りなければ、これらを使ってとのこと。例外として、あつもの=お吸い物だけは味がしないと思うから、塩をひとつまみ入れることを勧められた。


飲み物は濁り酒の白酒しろき。坏に注ぎたる酒、う~ま~し~!ホントね、坏で飲むってのが嬉しいの。


白酒はおかわり自由なのでどんどん飲んで、なんて言われて、遠慮なく好きなだけ飲んじゃった。おかわりは、液体を入れるのによく使われたと思われる土器に入っていて、平城宮跡資料館にある、当時を再現した役人の机の上にある水さしと同じ形状なの!これで注ぐのもメッチャ楽しい!平瓶は注ぎ口を下にすると零れるので、このように横向きに注いだんじゃないかって。


料理や酒だけでなく、箸にまで工夫が行き届いていて、形状が先細りになった現代とは異なり、均一の太さ。普通こんなの無いから、特注品だそうだ。何もかもがスゴい、徹底してる。


魚条すわやりは、海のない都に鮮魚のまま運べないため、表面を塩で拭いて細く割って干して、保存食にしていたものだとか、一つひとつの料理に語り部さんの解説が付く。さらに話は食の歴史にも及び、この宮廷料理の再現は平安時代の食をベースにしており、奈良から京都に都が遷ったといっても、たかだか百年かそこらで食生活は大きく変化しないであろうこと、平城宮跡や長屋王邸跡から出土した木簡を参考に、食材を研究したことなどを教えてくださった。これがまた興味深くて勉強になるんだ。
しかも、通り一遍の説明にとどまらず、こちらの質問にも丁寧にお答えくださる。嫁も素朴な疑問をぶつけたりしていた。僕も楽しくて色々話しちゃって、聖武天皇の肉食禁止の話が出たときに、そういや天武天皇が同じような詔を出していたなぁと口に出したら、この点は語り部さんもご存じなかったようで。奈良時代ではなく飛鳥時代のことだもんな。


しかも、再現度が高いだけでも楽しいだけでもない。先に述べたように、基本的に味付けがされてなくて素材そのものの味なんだけど、意外なほど美味しいの。塩梅料ほとんど必要なし!特に季節もののハモの羹、美味しかったぁ。ハモは小骨が多いため、骨切りという切れ目を入れる下処理をしてあった。当時はそんなことしていなかったと思われるものの、さすがにそれだと食べづらいのでここは現代風に。無闇に再現にこだわらない、ここら辺のバランス加減が上手いよねぇ。

他にもなます強飯こわいいつつみやきゆでものにらぎ、姫飯、草醤くさびしおとボリュームたっぷり。冷めた料理ばかりかと勝手に思っていたけど、温かい料理もたくさんあった。


デザートは久多毛能くだもの唐菓子からがし。唐菓子は米粉などで作ったドーナツみたいなもので、甘葛煎あまずらせんという当時は貴重品の甘味料を加えてある。砂糖に慣れた現代人にとっては、ほ~んのりした甘さ。話には聞いたことがあったけど、初めて食べることができた。

配膳してくださった采女さんも、お衣装がお似合いで可愛らしかったね~。
語り部さんも采女さんもマスク姿とはいえ、こちらは食事なのでマスク外しちゃうし、気になる人は気になるかも。質問や感想を言うときは顔をそらしたり、給仕してくださったときは無言で会釈して謝意を伝えたりと、僕らも気をつけた。


参考に、これも平城宮跡資料館に再現展示されている皇族・貴族の食事の写真を。こことの比較からも、奈良パークホテル側の再現度の高さがうかがえるというもの。

始まりから終わりまで、素晴らしい体験だった!少しでも奈良時代(かぐや姫の時代といってもいいね)に興味があるなら、ぜひ味わってもらいたいね。

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