桜雨に包まれる わたらせ温泉ホテルささゆり

2026年3月31日火曜日 12:09
熊野本宮大社のすぐ近くで泊まれたらいいなと思って選んだのが、わたらせ温泉ホテルささゆり。長距離運転の疲れを癒せる温泉付きというのも決め手だった。
地名は「渡瀬わたぜ」なのに、ホテル名は「わたらせ」。細かい理由までは調べていないけど、こういうズレはちょっと気になる。
参拝を終えた僕たちは国道311号まで戻り、ホテルへの分岐を北へ折れて小川を渡る。そこから細い路をぐるっと東へ回り込むように進むと到着。立派なエントランスポーチはあるものの車寄せはないため、駐車場から荷物を運ぶことになった。

チェックインを担当してくれたフロントスタッフは中国系の方で、日本語はややたどたどしい。業務自体は問題なく進んだのだけど、貸切露天風呂について質問すると、要領を得ない返答が続いた。その場は深追いせず、客室へ案内してもらう。

大露天風呂の近くの壁には、熊野本宮参詣曼荼羅のタペストリー。こういう観光地らしい装飾は、むしろ歓迎したいほうだ。

今回泊まったのはツインの洋室。トイレはあるが風呂はない。和室はどうにも苦手だし、和洋室も悪くはないけど、やはり洋室がいい。洋室のある温泉宿というのは、それだけで選択肢がぐっと絞られるからありがたい。
ひと息つく間もなく浴衣に着替え、貸切露天風呂へ。フロントでカギを受け取り、サンダルに履き替えてすぐ隣の離れへ向かう。オートロックなのも安心できるポイントだ。
敷地内の吊り橋を渡った先には、さらに大きな貸切露天風呂もあるらしい。ただ、二人で入るにはここで十分すぎる広さだし、源泉かけ流しなのも嬉しい。
大露天風呂は西日本最大級とのことだったけど、男女別で夫婦一緒には入れないため、今回は見送った。

しっかり温まったあとは、ロビーのウォーターサーバーで冷たい水を一杯。ペンダントライトや絨毯がどこかレトロで、少し落ち着く空気が流れている。

部屋には、温泉宿らしいお着き菓子が用意されていた。「熊野古道物語 梅クランチ」と「柚もなか」。本来は到着後にいただくものだろうけど、温泉を優先したのでこのタイミングに。どちらも安定したおいしさだった。

夕食は18時から。少し早めに部屋を出て、お土産処をひと通り見てからレストランへ向かう。席に案内されると、先付や凌ぎがすでに並んでいて、すぐに食事に入れる状態。食前酒が「紀州の梅酒」というのも、土地らしさがあっていい。
料理に合わせるなら、やはり地酒。尾崎酒造の「吟醸酒 熊野三山」はフルーティーで飲みやすい。

焼物は「地元産 天子の塩焼き」。産地を聞くと、すぐそばを流れる四村川よむらがわとのこと。敷地を取り囲むように流れているあの川だと思うと、ぐっと距離が近くなる。本当に“目の前の川の魚”なんだなと実感する。
川魚はきれいに食べるのが難しいけど、それでもやっぱり好きなんだよね。

二杯目は名物の「あまご酒」。いわゆる骨酒こつざけだ。竹筒の中を覗くと、アマゴが一匹丸ごと入っている。
これを食べたいというお客さんもいるらしいが、美味しくないのでやめたほうがいいと給仕さんが教えてくれた。旨味はすべて酒に出ているからだという。
実際に口にすると、まるでアマゴを丸ごと頬張っているような感覚で、酒というよりもう一匹分の魚を味わっているようだった。香ばしさがふっと鼻に抜けていく。

少し飲み足りなくなって地ビールを頼もうとすると、限定の「みかんエール」もあるとのこと。せっかくなのでそちらを選んでみると、これが意外と食事に合う。
会席料理は量が多すぎて苦しくなることもあるけど、今回はちょうどいい満足感。部屋に戻り、気分よく眠りについた。

翌朝の朝食は7時半。いかにも旅館らしい和定食で、温泉粥は二人とも何度もおかわりするほどおいしかった。

食後、もう一度貸切露天風呂へ。この日は雨で、屋根を打つ水音が静かに響き、すぐそばの桜の花びらがひらひらと舞って湯船に落ちてくる。しっとりとした、いい時間だった。

ゆっくりと11時前にチェックアウト。ポーチに車は付けられないが、スロープ沿いに小さな庇がある。そこに車を寄せ、嫁と荷物が濡れないように乗り込ませる。スペースが狭く、何度か切り返しは必要だったけど、雨の中では十分助かる動線だった。

熊野本宮大社の参拝を終えてすぐそばに泊まることで、あの場所の空気をもう少しだけ長く体に留めておけた気がする。温泉に浸かって、土地のものを食べて、雨音や桜を眺めながら過ごす時間は、ただ観光地を巡るだけでは得られないものだった。そうして過ごすうちに、この土地との距離がほんの少し近づいたように思うよ。

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