新薬師寺

2023年6月23日金曜日 17:13

新薬師寺しんやくしじは、奈良市高畑町にある寺院。光明皇后が夫の聖武天皇の病気平癒のために創建したと伝わる。平城右京の薬師寺に対し、新しく建てた薬師寺という意味で新薬師寺と称せられたもので、薬師寺と直接関わりは無い。
御本尊を取り囲む十二神将立像を拝みたいと思っていたところ、近々御本尊が修理に入るという。その前に参拝することにしたよ。

『続日本紀』天平十七年(745)条に、
聖武天皇が御病気になられたので、都と畿内の諸寺に薬師悔過けかの法要を行わせた。また、諸国に高さ六尺三寸(2m弱)の薬師仏像七躯の造立を命じた。
とあり、『東大寺要録』の本願章には、
天平十九年(747)、聖武天皇の御不予を契機に、光明皇后が新薬師寺を建て、七仏薬師像を造った。
とある。
こうして創建された新薬師寺だが、『日本紀略』や『東大寺要録』巻第四に所引の『村上御日記』に、
応和二年(962)、台風で金堂などが吹き倒された。
とあり、七体の薬師像は早くに失われてしまった。その後金堂の再興が成されたのかは不明だが、南都焼討を経て主要伽藍が壊滅。『山槐記(藤原忠親の日記)』治承四年(1180)条によれば、「新薬師寺は本堂と僧房」を残すばかりとなっていた。
ここでいう「本堂」は現在の本堂と同じで、焼失した七仏薬師の金堂より東に位置している。また、現在の御本尊の木造薬師如来坐像は平安初期の彫刻とみられることから、この頃には七仏薬師に代わって本尊として安置されていたことになる。

新薬師寺といえば、十二神将にも触れないわけにはいかない。天平年間(729~749)の作品で、日本最古にして最大の十二神将像だ。
その由緒については、『南都名所集(延宝三年(1675))』巻第六の新薬師寺条に、
十二神将は石淵寺から洪水で流れてきたのを取り上げて、新薬師寺に安置した。
とある。また、『新薬師寺縁起』は奥書に元禄十三年(1700)とある近世の書だが、末尾に「これは国史と旧記によってまとめた」とあり、確かな史料に基づいて編まれた縁起らしい。その中に、
十二神将は、元は岩淵寺に在ったが、この寺が零落した時、新薬師寺に移された。
とある。寺の縁起にまでこの十二神将像は岩淵寺の像だと書かれていることに、注目したい。
その岩淵廃寺について『大和志(享保二十一年(1736))』添上郡の条には、「鹿野園村の東に在り」とあり、新薬師寺の南西にある高円山の麓にあったと考えられている。

さて、ミ・ナーラを去るにあたって駐車料金を精算するんだけど、ゲート機もロック板もないスマートパークの利用は初めて。だけど予習しておいたので、精算機にナンバープレート4桁を入力し、サービス券をかざして、完了。嫁も、初めて見るシステムに感心していた。
それから春日大社南にあるコインパーキングへ。新薬師寺に参拝者用駐車場はあるんだけど、その前に寄りたい所があってね。


それが、志賀直哉旧居の隣にあるガーデンカフェ『たかばたけ茶論さろん』。JR東海のキャンペーン「いざいざ奈良」春日大社・高畑編で、鈴木亮平さんが行かれていたのがきっかけ。割とミーハー。


お好きなお席へどうぞとのことで、曇り空で暑くも寒くもないし、せっかくだからテラス席にする。CMで見たことある景色だー。ちょっとテーブル配置が違うのかな。


ひと息つくのも目的なので、糖分補給に二人ともチーズケーキ。それに嫁はアイスティー、僕はアイスコーヒー。利尿作用があるから旅先では避けてきた飲み物だけど、飲みたい気持ちに素直になろうと。どっちも美味しかったぁ。
閑静でゆったり寛げたし、店員さんの感じも良かった。嫁も気に入ったようす。素敵なお店に出会えたなぁ。


そこから新薬師寺に向けて歩いていくと、山辺の道の北端を偶然通ることになった。これまで部分的に歩いたことはあったけど、現存最古の道の終点を通行できて嬉しい。


新薬師寺の東門を過ぎた先に、比売神社ひめがみしゃが鎮座していた。十市皇女とおちのひめみこの御霊を鎮めるため、昭和五六年に個人が建てた神社らしい。
皇女は、壬申の乱で夫を父に殺された(厳密には自刎に追い込まれた)という、悲劇の女性。こんなところにお祀りされていたんだね。思いがけないことが続く。
気づけば空が晴れ渡ってきた。


新薬師寺の入口である南門はその横。受付らしい小屋は無人で、「拝観料は本堂でお支払い下さい」とある。が、門扉が閉ざされていてどうすればいいんだろうと思ったら、これは鹿よけで、入ったら必ず閉めるように張り紙がしてあった。そういうことね。


正面に本堂。この時代の建築を見慣れてきたからか、そのフォルムから天平様式と感じ取れた。創建当初から残る御堂だ。
西側に入口が設けられており、中の券売機で拝観料を納める形になっていた。発券して係りの方にお渡しする。
堂内を反時計回りに巡る。御本尊の薬師如来坐像は一木彫で国宝。ふくよかなお姿に静かに合掌。背後に回って光背の裏まで見えたのだけど、そこには装飾が無く、おそらく元々は壁に面していたのかなと。
そのお薬師さまを中心に、円形須弥壇にズラリと居並ぶ塑造十二神将立像が圧巻!昭和六年の補作1体を除く11体がすべて国宝だ。
各名称が新薬師寺指定と国指定とで異なっておりややこしいので、寺指定の名称で語ることにしよう。補作は波夷羅ハイラ大将とされる像だ。ちなみに、神将像の持つ持ち物はいずれも補作の上、持ち物によって尊名を特定できるものでもないのだとか。
ほぼ等身大で、十二体それぞれ髪型から表情、姿勢に至るまで、個性豊か。宮毘羅クビラが口を開き激しい怒りで睨みつける一方、招杜羅ショウトラは静けさの奥に強さを秘めているようだ。中でも、左手を上げ躍動感溢れる迷企羅メイキラが素晴らしい。彩色の残っている部分も結構ある。
お薬師さまを含め、もっと見ていたくてもう一周したくらい、魅了された。


本堂の西には、池の向こうに香薬師堂。新薬師寺は香薬師寺とも呼ばれ、創立事情は縁起のそれより複雑のようだ。
また庫裡には、旧境内である七仏薬師金堂跡の南側から出土したという、奈良三彩の破片や軒丸瓦が展示されていた。

参詣を終えて15時半、何をするにも中途半端だし、帰ろうかと思った。けど、お茶休憩してもいいかもと思い直す。商店街周辺でコインパーキングを探すなら、あの辺に行けばいいなとカーナビに頼らず行けたから、だいぶ土地勘が付いてきた気がする。小西さくら通り商店街の南に延びる路地沿いで、空きを見つけた。


向かったのは『ことのまあかり』さん。なんだかんだで久しぶりだ。嫁は「ゆい」の和紅茶、僕は風土記ブレンドのアイスコーヒー。それに『花水土香』さんのイチゴを使用した削氷「いちびこ」。ふわっふわの冷たい贅沢イチゴジャムを頬張っているみたいで美味。
店長さんから、「今日は大安寺さんですか」と訊かれた。そうか、笹酒夏祭りの日か。たまたま予定が合ったのが、この日だっただけなんだよね。店長さんたちとも、色々お話しできて楽しかったなぁ。

疲れ切る前にしっかり休むのと、カフェタイムを意識的に挟むようにしたら、旅の満足度が高まる。そう学習してから、本当に充実感が増した。慣れた奈良の1泊1日でもそれが感じられたのだから、これからも続けていこう。

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