春雨にけむる月ヶ瀬梅林

2022年3月22日火曜日 23:38

奈良市の名勝・月ヶ瀬梅林つきがせばいりん。峡谷沿いに広がる梅林という独特の美景を、一度観てみたい。また、月ヶ瀬は茶の名産地でもあり、愛飲している煎茶のひとつが月ヶ瀬産と、日頃からお世話になっている。ただ、奈良では有数の梅の名所ということで、かなり混み合うと聞く。そこで、平日を狙って行ってみたよ。

宮跡をあとにした僕たちは、ビエラ奈良で夕食を調達したら、木津川に沿って東へと走り、フェアフィールド・バイ・マリオット京都みなみやましろへ。フェアフィールドは市街地から離れた絶妙な立地の多いホテルで、マリオットブランドのホスピタリティを受けられると判り、最近お気に入り。
チェックインを済ませてから、隣接する道の駅お茶の京都みなみやましろ村を覗いてみた。ホテルに行く前に寄ろうとしたら、駐車場が満車の上に行列までできていて、えらいことになっていたんだよね。道の駅の中も大混雑。それでも、面白そうなデザートなどを買えた。
ホテルの部屋で、柿の葉寿司を奈良の地酒で味わう。これはこれで楽しい。食後には道の駅で見つけた『むらちゃプリン』。これが香り高い抹茶となめらかな食感で、メッチャおいしかった!

翌日の天気は、雨。むしろ狙い通りだ。鯖寿司を朝食にして、8時過ぎにチェックアウト。月ヶ瀬今山線を南下していくと、梅の並木道があって早くも胸が高鳴る。月ヶ瀬行政センター前駐車場に到着すると、他に停まっている車が一台も無い状況だった。


傘を差して道なりに歩いていくと、名勝指定碑が立っていた。


そこからすぐの、お店の庭に見事な枝垂れ梅。雨で散った花びらでピンクに染まった地面も含めて、美しい。

その先は急坂。嫁のペースでゆっくり上る。道案内を頼りに進んだはずが、迷って真福寺に至ってしまった。せっかくなので寄っておいた。
地図で方向を確認して戻り始めたら、脇道に気づいた。そちらから行けそうだ。


そして目的の帆浦梅林ほうらばいりんへ!咲き誇る白や赤の梅花と、峡谷を流れる五月川さつきがわから滑り昇る霧に煙る山々……なんて幻想的な光景……そう、これが観たかったんだ!
月ヶ瀬の梅の木々は、元は染料に用いる烏梅うばいの生産のために植えられたもの。景観のためではなかったが、その魅力が発見され広く知られるようになり、江戸後期の儒学者・斎藤拙堂さいとうせつどうが著した紀行文『月瀬記勝つきがせきしょう』によって、名勝としての地位を不動のものとした。
その『月瀬記勝』に次のような一節がある。
余嘗遊芳野。観其一目千本。有此盛。而無此勝。又嘗観嵐山桜花。有此勝。而無此盛也。
(私はかつて吉野を遊覧して、その一目千本を見た。そこは月ヶ瀬のような花の盛りはあるが、月ヶ瀬のような景勝はない。また、かつて嵐山の桜も見た。そこは月ヶ瀬のような景勝はあるが、月ヶ瀬のような花の盛りはない。)
吉野や嵐山を引き合いに出して、山に川に花もある月ヶ瀬のほうが優れていると、絶賛しているんだよね。や~、確かにこれは感動するよ。


春雨に濡れる花もまた趣がある。
帆浦梅林についても記述があり、
尾山之梅以谷量。八谷各数百千樹。真福在其極西。其下為初谷。名曰敞谷。
尾山おやまの梅は谷で計量するほど多い。八谷やたにはそれぞれ数百数千本もの梅の木々に覆われ、真福寺はその最西端にある。その下が初めの谷で、名を敞谷ほうらだにという)
と、用字こそ今と異なるものの、無数の花がある谷のひとつとして紹介されている。

他にもビュースポットが点在しているけど、戻りながら一目八景を眺めるくらいに止めた。
それにしても、三連休明けの平日でしかも一般的には悪天候とあってか、ほとんど観光客がいない。帰路ですれ違ったのはたった二組。そこも狙ってはいたけど、よもやこれほどとは。
商店も閉まっている所が大半で、数少ない開いていたお店で、自家製だという梅干しをお土産にした。好きな物が安く手に入ってほくほく。

滞在時間は短かったけど、素晴らしい景色を堪能できたよ。奈良って、曇天がいやにしっくりくる気がする。

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