ホテルホリスティックリゾート 那智の前夜

2026年4月1日水曜日 08:49
熊野那智大社に比較的アクセスしやすくて、ベッドと夕食があるホテルを探し、今回宿泊したのが、HOLISTIC SPACE JAPAN MEDICAL & RESORTホリスティック・スペース・ジャパン メディカル&リゾートHOTEL HOLISTIC RESORTホテル ホリスティックリゾートという別称もあるのが少々ややこしい。
公式サイトの説明によれば、
リゾートホテルにも、断食施設にも、心身のリトリートの場として、保養所にも、治療所にもなるホリスティック(全体・包括的な)な場所。
とのことなので、なかなか尖ったコンセプトのホテルのようだ。とはいえ僕たちは、あくまでリゾートホテルとして利用することにした。

降りしきる雨の中、新宮参拝を終えた僕たちは、新宮市から那智勝浦町を縦断し、太地町にあるホテルへ向かう。和歌山県道240号梶取崎線を走っていると、森浦湾越しに巨大なクジラのモニュメントが見えた。さらにその先の案内標識には、「くじらの博物館」の文字。
気になって後で調べてみると、太地町は日本の捕鯨発祥の地の一つとされ、網を使った組織的な捕鯨(網取り式捕鯨)を発展させた場所らしい。
太地って、地図で見ると那智勝浦にちょこんとくっついているような場所。それでも合併せずに独立した自治体として存続しているのは、おそらく、歴史的に独立した共同体としての強さがあったからだろう。外に依存しなくても成立する、ある種完結した経済圏を持っていた、ということだ。
加えて、地理的な条件も大きい。那智勝浦と太地は距離だけ見れば近いけど、実際には山と入り組んだ海岸で区切られていて、生活圏としては微妙に分かれている。それは道を走ってみて、はっきりと実感できた。
ここでちょっと面白いのが、捕鯨という高度に組織化された営みと、この地形がきれいに噛み合っているところ。太地は単に文化があった場所というよりも、その場所でこそ成立しやすいシステムを持っていたんだろうね。

――と、少し話が逸れた。
ホテルにはチェックイン時間ちょうどの15時に到着。ここには車寄せがあったけど、着く頃には雨がほぼやんでいて、エントランスの目の前に駐車できたので、結局使うことはなかった。
フロントでは、白髪交じりでハツラツとした印象の男性が迎えてくれた。遠く姫路からお越しで……と言われて、同じ近畿圏なのにやっぱり遠い場所と思われるんだなと、内心少し笑ってしまう。紀南地方は山と海に囲まれている分、心理的な距離が確かに遠い。土地の人にとっても、それは同じなんだろう。

このホテルはスパ施設が充実しているのだけど、改修工事中で利用できない。そのお詫びを兼ねてか、客室をアップグレードしてくれた。
予約していたのはスタンダードツインだったが、案内されたのはスーペリアツイン。バスルームとトイレがセパレートの部屋で、広々としていてゆったり寛げる。白を基調としたシンプルな内装や調度品も、落ち着いた雰囲気で好印象だ。
天候不良で予定を切り上げてきたこともあって、時間には余裕がある。部屋で太地町についての本を読んだりしながら、静かに過ごした。こういう時間も、悪くない。

ディナーは『RESTAURANT NATURE』にて。医食同源を掲げる薬膳美食レストランらしい。僕たちは創作フレンチのコースを選んだが、和食コースも用意されている。
ドリンクメニューにはワインが一つもなく、並んでいるのはビール、日本酒、焼酎、それに居酒屋でも見かけるようなカクテル。日本酒は地酒が揃っていて、せっかくなのでそちらをいただいた。おそらくお店としては、フレンチ調の料理を日本酒で楽しんでほしい、という方向性なんだろう。
ただ、給仕担当の年配の女性には少し気になる点があった。アミューズの際、一番外側のナイフとフォークを使い、食後は皿の上に横に揃えて置いたのだが、前菜が運ばれてきたとき、それらを無言で皿から下ろし、カトラリーの列に戻された。それも一番内側に。創作フレンチでカトラリーを使い回すこと自体はあり得るが、説明がないのはやはり不親切だし、せめて外側に戻してほしかったところ。
また、料理の説明の際にカンペを読んでいるのが見えてしまった。このあたりを見るに、マナーも含めてフレンチの理解がやや浅いんだろうね。
さらに、原因が給仕さんにあるのかは分からないが、妻の皿に二度も髪の毛が入っていたのも気になった。場の空気を乱すのが嫌でその場では何も言わなかったけど、さすがに印象は良くない。
とはいえ、料理そのもののレベルは高かった。一皿一皿に工夫があり、見た目にも楽しめる。地酒との相性はベストマリアージュとまでは言えないけど、悪くはない。
おそらく、和食ベースのお店が創作フレンチにも取り組んでいて、料理人はフレンチ寄りの技術や表現を持っている。一方でお店の軸は和食と地酒にあり、サービスは和食基準で回っている。やりたいことは良いのに、それを支える言葉や所作が追いついていない……そんな印象だった。
正直そこまで期待していなかったこともあって、まあいいか、という気持ちで落ち着く。本命は明日だ。

料理やサービスについてあれこれ思うところはありつつも、部屋に戻ると、落ち着いた空間と外の静けさに包まれて、気持ちがゆっくりとほどけていく。
時間に追われることもなく、そのまま何をするでもなく過ごしていると、自然と一日の疲れが滲み出てきた。やがてそのまま、ぐっすりと眠りについた。

翌朝も同じレストランで、薬膳和朝食。印象に残ったのはサンマの干物だ。新宮には姿寿司という名物があるし、マグロやクジラの陰に隠れがちではあるけど、実はサンマもこの地域では主役級の魚なのかもしれない。

いろいろと気になる点はあったものの、全体としては静かな環境の中でゆっくりと過ごせる、落ち着いた滞在だった。
空はひとまず持ち直しているものの、また降り出しそうな気配を孕んでいるのが気がかり。だけど、いよいよ那智へ向かおう。

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