白兎神社と淤岐ノ島

2021年7月22日木曜日 14:33

白兎神社はくとじんじゃは鳥取市にある神社で、前に広がる白兎海岸は“因幡のしろうさぎ神話”の舞台とされる。淤岐ノ島おきのしまから海岸に渡りたいと思ったウサギが、海のワニ(サメ)を騙してその数を数えるふりをして背の上を踏み渡って、最後に騙していたことを言ったせいで皮をはぎ取られたという神話は、古事記を読んだことのない人でも知っているほど有名。
天気の良い休日に、日帰り圏内の行きたい所……ということで、行ける時に行ってきた!

祝日移動で海の日になったこの日、8時半過ぎに発って中国道経由で鳥取道を走り、ひたすら山の中を北進。鳥取ICで下りたら国道29号でさらに北へ向かい、国道9号にぶつかったら西へ。出発から2時間ちょっとで目的地に到着。新車購入してから初の、100kmを超えるロングドライブとなった。エンジンの進歩は凄まじいね、前と同じ軽四なのに、上り坂も追い越しもずいぶん楽になったよ。


まずは、道の駅神話の里白うさぎの2階にある『おさかなダイニング ぎんりん亭』。開店の11時より少し早く着いてしまったから、凝ったオブジェなどを眺めながら待つ。ほどなくして店員さんが札をひっくり返して『商い中』とされたので、入店。
検温機能付ディスペンサーに手をかざすと、手の平が温まっていたからかアラームが鳴ってしまった。店員さんにおでこで測るタイプの検温器で改めて確かめてもらい、平温と判定された。ちょっとビックリしたよ。通されたのは掘りごたつ席。テーブルの真ん中はアクリル板が設置されており、隣との境にもビニール幕が張られ、飛沫対策ががっちりしている。よく見ると店員さんの手にはゴム手袋がはめられていた。お店のほうも大変だなぁホントに。


さてさて、僕らのお目当ては海鮮丼!活けと漬け2種のイカにマグロ、カニ、ウニ、エビなどなど、めちゃめちゃ贅沢で新鮮で美味しかったー!山陰を代表する漁港・境港で獲れる海鮮は、普段親しんでいる瀬戸内海の海の幸とはまた違って、新しく感じられるし。これで1,870円は安い。あとね、割り箸にメッセージとイラストが焼き付けてあって可愛いんだ。箸置きもウサギ!
会計を済ませて店外へ出ると、待っている人たちがいるくらい混んでいるようで、早めに行って正解だったなと。


道の駅1階には、ウサギとオオクニヌシの顔ハメ看板。旅先で見かけたら、嫁にやってもらうのが定番になってきているな。恥ずかしいけど、旅の恥は掻き捨てってね。


建屋の外、道の駅の入口には『大国主命と因幡の白うさぎ』の石像と、神話を観光資源として徹底活用している。オオクニヌシの顔立ちに幼さが残っているのが、いい感じ。


『ゆるこじ』さんの動画配信で袋の小ささにツッコミが入っていたけど、確かにこれは小さすぎる。でも、直刀を佩いているのポイント高いな。


さあ、白兎神社をお参りしよう。アクセスが良い上に有名なお社だからか、写真を撮っている間にも続々と参拝客が出入りしていた。
一の鳥居の両脇に、新旧の社号標が立っている。


その手前には、可愛らしいピンク色のポスト。縁結びポストだって。色々とスゴいわ。


参道の石段の左右にもたくさんウサギの像があって、いちいち可愛いなぁもう!


石段を上った右手にガマが植えられていた。フランクフルトにも例えられるいわゆるガマの穂、大きな花穂は秋にかけて付けるので、今は茶色く細~い棒が見えるだけだ。昔は周囲に群生していたらしい。


左手には『大国主命と八上姫』の砂像。砂を水で固めただけだというのに、こんなにもしっかりと、長い間形を保っていられるんだね。ヤカミヒメの服装が平安貴族っぽいような。
それにしても、案内板でオオクニヌシとヤカミヒメの神話を「日本最古のラブストーリー」を表現していたのが、ちょっとモヤる。イザナギとイザナミは?スサノオとクシナダヒメは?


白兎神社の樹叢じゅそうは、天然記念物に指定されるほど貴重なようだ。


二の鳥居をくぐった先の手水は、オオクニヌシが担いでいた袋がモチーフで、上にはブサかわいいウサギ。ここで唱歌『大黒さま』のメロディが流れるとの情報があったけど、今は中止しているのか、聞こえてこなかった。


参道を挟んで反対には御身洗池みたらしいけ。ワニに皮をはがされたウサギが身を洗った池、との伝承があるそうだ。古事記には、
今急往此水門、以水洗汝身。
(急いで川の河口に行って、真水で体を洗え)
とあり、池ではなく水門(川の河口)。でもこれ、ちゃんと理由があって、白兎の村は古来もっと内陸側に位置していたといい、内海があった……つまり昔は川の河口だったけど、現在は地形が変わって池になったとすれば、伝承とも整合するわけ。
水位がほとんど変わらないことから、別名として不増不減の池。昔の人は神秘に思っただろうけど、白兎海岸は鳥取砂丘の西端で、岩盤と砂丘の境界にあるため、季節を問わず水量が一定になるという、地質学的なカラクリがあるんだね。


拝殿前の狛犬、お尻を振り上げていて愛嬌がある。出雲式構え型というらしい。出雲をはじめ日本海沿岸を代表する形式のようだ。


太く立派な注連縄の拝殿にて拝礼。
御祭神は白兎神ハクトカミ/ハクトシン。“因幡のしろうさぎ神話”のウサギを祀っているということになるんだろうが、仔細は不詳。
『因幡民談記』に「兔宮」として「高草郡内海村」に「大兔明神」が祀られていた記録などから、この辺りの地域でウサギを神として祀っていたのは確かなようだけど、「白兔明神」ではない。古事記には「裸兎」や「素兎」とあるばかりで、「白兎」ではない。また、
ガマの穂を敷き散らして、その上を転がったらもとのような体になった。
ともあるが、ガマの穂は濃い茶色で、ほぐして出てくる綿毛は薄茶色。ノウサギの毛色とピッタリ合う。古事記伝で本居宣長は、
裸兎の裸はアカハダと読むべし。ウサギの毛が無いことを指している。稲羽之素兎とあるが素がアカハダの意だとしたら、シロと読むのはいかがなものか。
とも言っている。
ただ、「兎神」であることは確かで、古事記伝でも、
予言通りオオナムチがヤカミヒメを得られたのは、ウサギの霊威のお陰なので、まさしく神である。
と。人々の信仰を集めていることもまた、疑いようがない。


本殿は大社造変形。西に面しているのも珍しい。参道も北から南に延びているし、色々と不思議な所だなぁ。


本殿を支える土台石に28弁の菊の文様があしらわれていて、菊座石きくざいしというらしい。菊といえば皇室ということで、神社創設に何らかの関係があったものとされる。わからないとしかいいようがないけど、亀井茲矩かめいこれのりが神社を再興したときにどうだったのかとか、その辺が気になるなぁ。


社務所には、手をかざすとアルコール消毒液を出してくれるウサギが!ここまでウサギ推しで貫かれていると、感心する。それに、これなら手をかざしたくなるもんね、巧いよ。


授与品も凝ったものが多く、嫁はウサギを象った縁結び守を授かった。

こまめに水分補給して熱中症を避けられても、暑いものは暑い。参拝を終えた僕らは、一旦道の駅に戻って涼んだ。


名誉駅長のみことくん(12歳男子)にも癒される。寝そべっていたのに、僕が近づいたらすっくと起き上がってはむはむし始めてくれて、サービス精神たっぷり。可愛いは正義だ。


嫁がしっかり休めたのを確認してから、次は白兎海岸へ。道の駅の2階から直接歩道橋に繋がっていて便利。
歩道橋上から、ウサギが最初にいたという「淤岐島おきのしま」と、渡った先の「気多之前けたのさき」とされる岬が見渡せる。
感染対策のため海水浴場としては開設されていない。それでも夏の海は見ていて清々しいね!砂浜では釣りに興じている人たちがいた。

淤岐ノ島をもっと近くで見たい。そんな僕のワガママに付き合って、嫁も一緒に浜辺を歩いてくれた。スニーカーの中に砂が入らないよう気をつけて歩くのは、ちょっと大変。波打ち際のほうが海水で固くなっているぶん歩きやすいけど、濡れないよう注意しなきゃ。波をよけたりして戯れられたから、なんだかんだ楽しめた。


淤岐ノ島は150m沖にある、凝灰角礫岩でできた島。浅瀬だし割と近いけど、ウサギちゃんが泳いで渡るにはちょっぴり厳しいかも。


東のほうに目を向けると、円錐形に見える小さな島。房島ふさしまというそうだ。神話にある「淤岐島」は沖にある島くらいの意味なので、この島だって候補になるわけよね。

海岸の端、少し登ったところに千木を載せた屋根が見える。もしかして神社?そう思って近づくと、アタリ。そうやって見つけるのさすがだよね、って嫁に言われた。今回自分ではリサーチせずに訪れたから、ここは知らなかったんだよね。でもこうして見つけたのは嬉しい。


川下神社かわしもじんじゃ。御祭神はトヨタマビメ。「古来気多ノ前神ヶ岩に鎮座されたもの」というから、淤岐ノ島に祀られていたのを対岸に移したんだろう。淤岐ノ島に立つ鳥居は、この川下神社に関係するのかな。

もうひとつ見つけたのが、砂浜には岩場が少しあって、その上に石灯篭が立っていた。写真撮り忘れたけど。恋島こいじまといって、オオクニヌシとヤカミヒメが恋を語り合った場所なんだとか。
海岸をまた戻るのはしんどいと思っていたところ、どうやら砂の坂を少し登れば、舗装路に出られそうだ。


国道9号の歩道で道の駅までてくてく帰り、『すなば珈琲』の水出しアイスコーヒーで一服。香ばしい香りとすっきりした後味で美味しい。

神話の舞台を巡るのは、やっぱ楽しい!本当にここなのか……なんて、遥か神話の時代のことだもの、わからないし、わからなくてもいいんだよ。ロマンを感じられる場所がある、それだけでも素敵なこと。それに、ここかどうかわからないってことは、逆に、ここで合っている可能性もあるってこと。そして、この胸のわくわくは本物だから。

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