小ネタ集 奈良の忘れ物たち

2019年12月28日土曜日 20:29
薬師寺から鴻ノ池運動公園まで移動し、嫁にはスタバで寛いで待ってもらって、ここからは僕の単独行動。先月の忘れ物をちょこっと回収したいだけのうえ、徒歩でしか行きにくい場所だからね。


奈保山東陵まで歩き、阿閇さまに年末のご挨拶。せっかくなので、ここでも見落としていることが無いか探してみた。脇に回ってみたりしたけど、特に目に付くものは無い。よし。


御陵から住宅街を通り抜け、奈良豆比古神社までの最短ルートを歩く。目的を果たす前に、主祭神に拝礼。


それから神門まで戻って、門の手前の片隅にある石碑を確かめた。


『元明天皇陵墓碑御旧趾』と刻まれている。これこれ、これが見たかったんだ。
続日本紀によれば、病に倒れた阿閇さまは薄葬にするよう遺詔を出されていて、その中に、
立剋字碑。
(字を刻んだ碑を立てなさい)
とある。そして崩御ののち、「大和国添上郡椎山陵ならやまのみささぎ」に埋葬された。椎山陵は現在、先程お参りした奈保山東陵に治定されている。
平安後期の東大寺の寺誌『東大寺要録』巻第八の裏書には、その碑のサイズのほか、碑文の内容が次のように残されている。
大倭国御谷郡平城
之宮馭岑八側
太上天皇之陵是其
所也
養老五年歳次辛酉
冬十二月癸酉撥十
三日乙酉葬
椎山陵に立てられたこの「剋字碑」は、いつしか土中に埋没してしまっていたらしく、山が崩れた際に出てきて、奈良坂春日社の境内に移され、その形状から“函石”と呼ばれていた。ただ、碑文が磨滅しており誰も読めなかった。そこへ、江戸時代後期の国学者・藤貞幹とうていかんが“函石”を実見し、『東大寺要録』にある元明天皇陵碑だと断定した(奈保山御陵碑考証)。
幕末の御陵の修繕で“函石”は陵上に移され、明治には覆屋の中に保管されて、隣に模造碑が立てられたとか。
そして今、一時期陵墓碑が置いてあったことを示す元明天皇陵墓碑御旧趾の碑が、奈良坂春日社の論社である奈良豆比古神社の境内に立っている、というわけだ。
陵墓の場所でも陵墓碑が出土した場所でもないのに、わざわざこうした石碑が立てられたのは不思議に思う。とはいえ、「剋字碑」に関することを調べるきっかけをくれたので、感謝したい。


鴻ノ池運動公園に戻りつつ、スタバで嫁と合流する前に、公園内の武道場の裏まで足を延ばした。藤原不比等公之碑があるのだ。ついでといってはなんだけど、近くまで来たのだから寄った次第。


側面にびっしり文章が刻まれているんだけど、不比等くんの功績をつらつらと挙げ、彼を讃えて碑を立てた旨を記すのみ。なぜここにそれが立っているのかには、一切触れられていないんだよね。
公卿補任くぎょうぶにん』には、不比等くんは、
火葬佐保山椎岡、従遺教也。
(「佐保山椎岡で火葬された)
とある。背後のこんもりした所が聖武天皇陵の陪塚ろ号で、すぐ隣のい号のいずれかを「佐保山椎岡」とする説があるので、おそらくそれを意識して立てたんだろう。

それなりに寒い日だったけど、かなり歩き回ったから、スタバに着く頃には汗をかくほど暑く感じていた。アイスコーヒーが美味しい。それとホットサラダラップでおなかを満たした。嫁は電子書籍を読んで過ごしていたそうだ。
次は後々の行動も考慮して、近鉄奈良駅付近の立体駐車場まで行き、車を停めた。


そこから東へ東へと(今度は嫁と一緒に)歩いて、春日大社摂社の水谷神社みずやじんじゃへ。前回訪れたときに嫁が願掛けをしたけど、まだ叶っていないとのこと。ともあれご挨拶とお参り。
それにしても、奈良公園周辺は混雑しているね。年末だからむしろ空いているんじゃないかと勝手に思っていたけど、全然そんなことなかった。


水谷神社の社殿下にある、表面が白い漆喰で塗り固められた磐座いわくら。春日大社の境内社のほとんどを巡った際に気づけなかったものだ。記録が一切ないという、存在自体が謎なのね、これ。


大社本殿にも同様の磐座があるらしいんだけど、20年に一度の式年造替での特別参拝の時、そこは見損ねてるんだよなぁ。こんなものがあることすら知らなかったんだから、どうしようもないんだけどさ。

目的をすべて達成できたし、いつも買いそびれる土産を手に入れるため、近鉄奈良駅方面に向かう。


途中、興福寺に立ち寄り、南円堂の鐘楼を確認。僕が聞いた午前6時以外に、正午・午後6時を報ずる鐘だと書かれていた。

駅の東改札外コンコースにある『GOTO-CHI奈良店』にて、『Golden Rabbit Beer』のあをによしビールを購入。2年前に居酒屋で飲んで美味しかった記憶がずっとあって。そのくせ全然買わずにいたんだから、ずるずる後回しにするのやめにしないと、と反省。
邪魔になるから、一旦車に荷物を置きに行った。


最後に『ことのまあかり』さんへ。もはや定番になりつつあるなぁ。
歩いたのと人の多さに疲れたので、いちごもりもりホットケーキ!嫁とシェアして食べたんだけど、いちごがメッチャ甘くて二人ともビックリした。いちごらしい酸味ももちろんあって、ホットケーキに合う。美味しかったぁ~。ビターな日本書紀珈琲との相性もバツグン。
ひと息吐けたところで、約束していた生駒さんとあれこれお話し。2時間近く、ほぼ元明天皇の話題っていう濃厚なひとときを過ごせた。生駒さんは、阿閇さまのことをフルスロットルで語り合える、メチャクチャ貴重な人だからなぁ。僕なんかより知識も情報も豊富だから、得るものも多いし、ひたすらに楽しかった!ほとんどチンプンカンプンだったろうに、付き合ってくれた嫁にも感謝。

年の瀬にまで奈良に行くことになるとはねぇ。色々見落としたりしていた物事を拾いに行く、良い機会を得たってことかな。美味しいもの食べたり、巡る場所を絞ったりと、気持ちにゆとりのある旅程も良かった。
帰りの阪神高速が気味悪いくらいスイスイ流れていて、これが年末か、と思ったし、普段動かない時期に動くと新しい発見もあるものだなぁ。

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