USJハリポタ初体験 夕暮れのホグズミードと夜のホグワーツ城
2026年5月7日木曜日
21:34
十数年越しに、ようやくUSJのハリー・ポッターエリアを訪れることになった。せっかくなら、ただアトラクションを回るのではなく、ホグワーツへ入学する前夜の気分で、夕暮れのホグズミード村を歩いてみることにしたよ。前回USJへ行ったのは13年前。その翌年にハリー・ポッターエリアがオープンした。当時はあまりの人気ぶりに「そのうち落ち着いたら行こう」と思っていたのだけど、2時間もかからず行けるとなると「いつでも行ける」が発動してしまう。実際、その間に東京ディズニーリゾートには3回も行っているのだから、不思議なものだよね。
つまり、僕ら夫婦は十年以上、あのホグズミード村へ一度も足を踏み入れていなかったことになる。関西在住でありながら、である。
ただ、結果的にはそれが良かったのかもしれない。開業直後の熱狂を過ぎ、完成度を増したホグズミード村へ、“新エリア”としてではなく、“魔法界”として入っていけたからだ。
そんな13年越しの初ハリポタエリアで、自分たちが何をしていたかというと――ホグワーツ新入生ごっこである。
ホグワーツ新入生の正式な流れを思い浮かべると、本来なら入学許可証が届き、ダイアゴン横丁で買い物をし、9と3/4番線からホグワーツ特急に乗り、ホグズミードから湖を渡って城を見上げる。もちろん、USJではその順番どおりにはいかない。ダイアゴン横丁はないし、9と3/4番線もない。ホグワーツ特急には乗れないし、小舟で黒い湖を渡ることもできない。それでも僕たちは、できる範囲で“新入生の気持ち”を拾って歩くことにした。
さて、まずはショーレストランでの夕食と写真購入を済ませたところから始まる。
この時点で、目当てにしていた「ホッグズ・ヘッド・パブ」の閉店時間はすでに過ぎていた。ショーの後で一杯やろうと思っていたのだけど、体験が思いのほか満足度の高いものだったので、これはこれで良しとしよう。
ラグーン沿いをぐるりと半周して、いよいよ「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」へ向かう。
エリア入口となる「ストーン・ゲートウェイ」を見て、まず思い起こしたのは、ハーマイオニーがドラコを殴ったシーンだった。ここから先へ進むのだと思うと、それだけで少し気分が変わる。
その先には、木々に囲まれた道が続いている。まるで“禁じられた森”へ入っていくようだ。ただ、完全に不気味な森というほどではないので、ハグリッドなら「ここらへんはまだ入っても大丈夫だ」と言ってくれそうでもある。
“森”を抜けると、ホグズミード村の入口に着いた。このホグズミード村は、単なる“映画風テーマパーク”ではない。映画版ハリー・ポッターの美術を手掛けたスチュアート・クレイグは、J・K・ローリングの強い希望もあり、ハリー・ポッターエリアの設計に深く関わっている。ローリング自身もまた、映画のビジュアルが“長年思い描いてきた魔法界そのもの”だと語っている。
小説にも映画にも、尖頭アーチの開口を持つこのゲートや、イノシシの紋章風シルエットそのものは出てこないかもしれない。だけど、そういうことはもう問題ではなかった。ここから先は、紛れもなくホグズミードなのだ。
アーチをくぐって村に入ると、ホグワーツ特急が現れる。映画そのままのヘッドマークやナンバープレートを見て、胸が高鳴る。蒸気を噴き上げる演出にも迫力がある。もちろん、ここに停まっている特急に実際に乗ってきたわけではない。それでも、ホグズミードの入口でこの赤い機関車を見ると、「列車でここまで来た」という気分になってくる。
ホグズミード駅の時刻表も、曜日ごとに事細かく書かれていた。“映画を再現した場所”というより、“映画の中で記憶していた魔法界”へ入り込んでいく感覚が、少しずつ強くなっていく。
それでは新入生らしく、本来はダイアゴン横丁でするはずの買い物を、ホグズミード村で少しだけ済ませることにしよう。「ダービシュ・アンド・バングズ」に入ると、檻に閉じ込められた“怪物的な怪物の本”が目に入る。寝息を立てていたので、起こさないよう静かに店の奥へ進む。
「グラドラグス魔法ファッション店」とは中で繋がっていた。
ハリー・ポッター公式サイトの組分けで、僕はグリフィンドール、嫁はスリザリンだったことから、それぞれ寮の色に合わせたネクタイを購入する。レジのクルーさんが、「ライバル同士の寮ですが、大丈夫ですか?」と心配してくれた。大丈夫です……たぶん。
「ふくろう便」の出窓には“吠えメール”があった。手紙が大声で内容を読み上げ、それが終わるや、ビリビリに破れて散っていく。魔法界には不思議なものがいっぱいだ。
そして、いよいよ“憧れ”のホグワーツ城を桟橋から見上げる。大階段塔に大広間、高架橋の中庭。右手には鐘楼や時計塔。村に入ったときにも感じたけど、ホグワーツがそこに在るというリアリティが迫ってくる。まだ空は完全には暗くない。だけど、初めて見るホグワーツ城としては、それだけで十分に強い体験だった。
せっかくここまで来たのだから、城のお手洗いを借りることにする。トイレへの案内には「LAVATORIES」とあった。「toilet」でも「restroom」でもなく、「lavatories」。ここには“嘆きのマートル”が現れるという。
これを嘆きのマートルのいる「トイレ」と訳してしまえば、もちろん意味としては正しい。だけど、「lavatory」という語が持つ、少し古風で英国寄宿学校めいた響きまでは、なかなか日本語へ乗せきれない。
化粧室の中は、城内を思わせる意匠で重厚感がある。そして、用を足す前からマートルに話しかけられた。僕はマグルだからその姿を見ることはできないが、声ははっきり聞こえる。それにしても、やけにおしゃべりなのね。
閉園時間の19時を過ぎても、エリア内はまだ多くの人で賑わっていた。
USJのややこしいところで、閉園時間になったからといって即座に追い出されるわけではない。どうやら、入園できなくなる時間であり、アトラクションへの案内が終わる時間、という意味合いらしい。
そのおかげで、夜のホグワーツやホグズミードを歩けるのだから、ありがたい。
陽が沈み、城の正門の門柱には文字が浮かび上がっていた。「Harry Potter and the Forbidden Journey」と記されている。しばらくすると、その文字はスゥッと消えていった。これも魔法なんだろう。
宵闇が迫るなか、改めて桟橋へ向かう。黒い湖は渡れない。小舟に乗ってホグワーツへ向かうこともできない。それでも、湖越しにホグワーツ城を見上げていると、映画『賢者の石』で新入生たちが初めて城を目にしたときのような気持ちになれる。
暗い湖の上に、明かりの灯った城が浮かんでいる。暮れに見た城は、「あ、本当に来たんだ」という実感をくれた。でも宵闇の中で見る城は、少し違う。映画の中で記憶していたホグワーツに、自分が本当に近づいているようだった。
ホグズミード村の外れには、道標が立っている。「HOGSMEADE」「HOGWARTS」という表記になっていて、「村」と「城」が地続きの生活圏であることを教えてくれる。映画『アズカバンの囚人』で、ハリーが夜の馬車道を進む場面にも標識が登場する。ここは馬車道そのものではないけど、夜景だと本当に雰囲気が出る。
夜のホグズミード村を歩く。キーキーとけたたましい叫び声が聞こえるほうへ近寄ってみると、「ドッグウィード・アンド・デスキャップ」の出窓に飾られた魔法植物マンドレイクが、鉢植えから飛び出そうとしていた。
マンドレイクの声をまともに聞いてしまったら、気絶するか、悪ければ死に至る危険もあるというのに、なんて恐ろしい店なんだ。
ホグズミード駅まで戻ってきた。すっかり陽の落ちたホームや駅舎を見ていると、今まさに特急から下りて到着したような気分になる。夕方に見たホグワーツ特急は、「ここに来た」ことを実感させてくれた。だけど夜のホグワーツ特急は、「ここに到着した」記憶そのものを作ってくれる。
昼と夜で、同じものを二度見ている。でも、それぞれ意味が違う。明るさの残る時間帯には、初めて目にする驚きがある。宵闇の中では、映画の記憶と重なる感覚がある。だから、じっくり二度ずつ見ることができて良かったのだと思う。
出口へ向かうため、森の小径を進む。“空飛ぶフォード・アングリア”のヘッドライトが付いていた。唸りを上げるエンジン音に、時折クラクションも聞こえる。禁じられた森へ帰りたがっているんだろうか。
木にぶつかったままになっているから、嫁が押して離してあげようとしたものの、びくともしなかった。
こうして夕暮れどきから夜にかけてのハリポタエリアを満喫した僕たちは、ホテルへと戻った。結局、「ホッグズ・ヘッド・パブ」でお酒を飲むことはできなかった。そこで、部屋にあったバーの案内を見て、ホテル内で一杯やることにする。
ブッフェダイニング「アーカラ」にてバー営業をしているという形態で、席もそちらと共用らしい。それも、ファミレスでよく見かけるようなロングソファ。ピンクと白を基調にした明るい空間には、イチゴの飾りまで天井からぶら下がっていて、さっきまでパブを目指していた身としては、なかなかの温度差だった。とはいえ、今さらコンビニへ行って缶ビールを買う気にもならない。それならそれで、ここで寛ぐことにしよう。
この半日の出来事だけでも、たくさんの感想があった。グラスを傾けながらそれらを嫁と分かち合う時間は、なんだかんだで心地よかった。
正式な入学手順とは、もちろん違う。だけど、ホグズミード駅に立ち、ネクタイを選び、湖の向こうの城を見上げ、夜の村を歩いているうちに、気分だけはすっかりホグワーツ新入生だった。
明日は、いよいよその城の中へ入る。部屋へ戻って眠れば、次に目を覚ます頃には、本当にホグワーツでの一日が始まるのだ。